ところ変われば:Appleの場合(5)


アップル社のMacBook Proの同一モデルのスペック表記が、国・地域によって少しずつ異なっているので、比べてみました。モデルは2017年6月発売のMacBook Pro 13インチです。市場に応じて製品スペックを変えてるというわけではなくて、同じスペック値の表記の仕方に違いが見られます。

【前回の投稿はこちら】ところ変われば:Appleの場合(4)


目次

  1. 数字と単位の間
  2. 英国報道系はスペースを入れない
  3. 形容詞のハイフン

次の4地域向けサイトの仕様ページ(Tech Specs)を比べました。

「Audio」(オーディオ)の項目を見てみましょう。市場によって表記が異なる箇所にマーカーを引きました。

MacBook Pro スペック:Audio

アメリカ合衆国サイト
Macbook Pro オーディオ(US)

英国サイト
Macbook Pro オーディオ(UK)

オーストラリアサイト
Macbook Pro オーディオ(オーストラリア)

香港サイト
Macbook Pro オーディオ(香港)


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1. 数字と単位の間

 L の部分を見てみましょう。アメリカ合衆国サイトと香港サイトは「3.5」と「mm」の間にスペースがあります。英国サイトはスペースがありません。オーストラリアサイトでは、ハイフンでつながれています

数字と単位の間:スペース・ハイフン

本サイトの投稿「スペース:間が大事」の『2. 数字と単位記号の間もスペースを入れる』で解説しているように、「3.5 mm」とスペースを入れるのが基本です。


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2. 英国報道系はスペースを入れない

英国の放送局BBCの教育部門である「BBCアカデミー」のサイトには、次のような記述があります。

. . . . There should not be a gap between number and abbreviated unit, and units of measurement do not in general take an ‘s’ in the plural.

【訳】(…前略…)数字と単位略語との間にすき間は入れません。また一般的に、寸法の単位に複数形の「s」は付けません。

BBC Academy – Journalism, Numbers” (accessed August 24, 2017).

数字と単位との間をつめることを示すためのサンプルではありませんが、同じページには以下のような文例も見られます。

  • He said the first 50ft (15.24m) of the climb had been hard.
  • The hedge was exactly 9ft 4in high (2.84m).
  • Police in France say the floods reached a peak of 5.3m (17ft 8in).
  • The lifeboat picked up the man about 200m (656ft) from the shore.

英国高級紙「The Guardian」「The Observer」のサイトにスタイルガイドが掲載されていますが、その「metric system」(メートル法)の項の例文でも数字と単位の間にスペースがありません。

. . . . Small units should be converted when precision is required: 44mm (1.7in) of rain fell in two hours. . . .

The Guardian – Guardian and Observer style guide, Info – M” (accessed August 24, 2017).

英国の経済紙「The Economist」のスタイルガイドの例文でも同様です。

It was hoped that after improvements to the engine the car would give 20km to the litre (47 miles per American gallon), compared with its present average of 15km per litre.

The style for calibres is 50mm or 105mm with no hyphen, but 5.5-inch and 25-pounder.

The Economist, Figures” (accessed August 24, 2017).

報道系以外でも、数字と単位の略語との間にスペースを入れない、とするところもあります。英国ケンブリッジ大学のサイトの編集スタイルガイドには、次のように書かれています。

Measurements (see also abbreviations, numbers and time)
Avoid leaving a space between number and unit of measurement (10km, not 10 km). . . .

【訳】数字と測定単位の間にスペースを残さないように(10kmとして、10 kmとはしない)(…以下略…)

University of Cambridge, Editorial style guide” (accessed August 24, 2017).

英国の報道機関や放送局では、「5m」「5km」のように数字と単位略語の間は空けないことが多いようです。

一方、オックスフォード大学出版のサイトにある執筆者向けのスタイルガイドでは、スペースを入れる、としています。

When an abbreviated unit is used with a number, the number should be followed by a space.
10 g
1.423 km

【訳】単位の省略形を数字と一緒に使う場合は、数字の後ろにはスペースを入れます。
10 g
1.423 km

Oxford University Press, 05 House Style” (accessed August 24, 2017).

また、英国でメートル法の普及活動をおこなっている団体「UK Metric Association」のガイドラインでも数字と単位の間にはスペースを入れています。

The names of metric units should not be abbreviated. Use symbols: 25 m not 25 mtrs.

【訳】メートル法の単位名は短縮しません。「25 m」のように記号を使います。「25 mtrs」とはしません。

UK Metric Association, Style Guide Section A” (accessed August 24, 2017).

数値と単位記号:英国報道系はスペースを入れない

放送局や新聞のライティングルールが、スペースを設けない方を選んでいるのであれば、消費者もそちらに親しんでいる可能性が大きいです。MacBook Proの英国サイトのライターさんが、米国サイトの「3.5 mm」を「35mm」に変更した理由も、サイトの訪問者が自然に感じる方を選んだからかもしれません。

ただし、国際単位系(SI)を推進している国際度量衡局(BIPM)やUK Metric Association (UKMA)は、数字と単位記号の間にはスペースを入れるのが正式としていますので、英国での表記が将来どうなるか気になるところです。


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3. 形容詞のハイフン

それでは、オーストラリアサイトのハイフン「‐」にはどういう意味があるのでしょう。

この部分の「3.5 mm」は「headphone jack」を補足説明しています。「(直径)3.5mmのヘッドホンジャック」という意味です。別の言い方をすると、「3.5 mm」は「headphone jack」を形容詞として修飾しています。

形容詞化する時のハイフン

例えば「100メートル」をすべてスペルアウトしたら「hundred meters」となります。これは、数を表す形容詞と名詞の組み合わせです。この「hundred meters」という組み合わせが形容詞のように「race」という名詞を修飾する場合、ハイフンでつないで「hundredmeter race」とします。(形容詞化するときに複数形の「s」は取れて「meter」になります)

「hundred」をアラビア数字の「100」に変えた場合も同様です。「100 meters」が形容詞化すると「100meter race」となります。

数値と単位:ハイフンかスペースか


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『シカゴマニュアル』と国際単位系はスペース派

しかし、「meters」を単位記号「m」で記した場合は、ハイフンは使わず「100 m race」とスペースのままになります。

『シカゴマニュアル第16版』の「Numerals versus Words」(数字か単語か)の項には次の記述があります。

Abbreviations and symbols. . . . . Note that hyphens are never used between the numeral and the abbreviation or symbol, even when they are in adjectival form . . .

【訳】略語と記号:(…前略…)数字と略語・記号との間には、たとえ形容詞形であっても、ハイフンは決して使われないことに留意。(…以下略…)


The Chicago Manual of Style, 16th Edition
(Chicago and London: The University of Chicago Press – 2010) (項目9.16)

また、アメリカ合衆国で国際単位系(SI)の普及に努めているアメリカ国立標準技術研究所(NIST)も、「7.2 Space between numerical value and unit symbol」(数値と単位記号の間のスペース)の項で、次のように述べています。

Even when the value of a quantity is used as an adjective, a space is left between the numerical value and the unit symbol. . . .

【訳】量の値が形容詞として使われているとしても、数値と単位記号の間にはスペースが残されます。(…以下略…)

NIST, NIST Guide to the SI, Chapter 7: Rules and Style Conventions for Expressing Values of Quantities” (accessed August 25, 2017).


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『マイクロソフトスタイルマニュアル』はハイフン派

一方、マイクロソフト社発行の『マイクロソフトスタイルマニュアル[1]』には、ふたつの単語が名詞を修飾する場合、数字と名詞をハイフンでつなぐ旨の記述があります。同書の中から例をいくつかピックアップしてみます。

数字と単位記号 形容詞化した場合
free 1 GB of hard disk space 10-GB hard disk
The top range of human hearing is 20 kHz. 8-kHz sampling rate

メートル法の単位記号と数字との組み合わせについて明確な説明を『マイクロソフトスタイルマニュアル』に見つけることはできなかったのですが、数字と単位記号であっても形容詞化する場合はハイフンを入れるとする意見は、ネット上でいくつか見られます。


[1] Microsoft Corporation, “Microsoft Manual of Style (4th Edition)”, Microsoft Press, 2012

お読みいただきありがとうございます。気が向いたらまた遊びに来てください。