アップル社のMacBook Proのスペック表記の、国・地域ごとの違いをこれまで比べてきましたが、今回が最後です。そこで「ところ変われば:Appleの場合(1)」から8回に分けて書いてきた内容を簡単にまとめます。
目次
アップル社のMacBook Proの同一モデルのスペック表記が、国・地域によって少しずつ異なっているので比べてみました。モデルは2017年6月発売のMacBook Pro 13インチです。次の4地域向けサイトの仕様ページ(Tech Specs)を比べました。
- アメリカ合衆国 – https://www.apple.com/macbook-pro/specs/
- 英国 – https://www.apple.com/uk/macbook-pro/specs/
- オーストラリア – https://www.apple.com/au/macbook-pro/specs/
- 香港 – https://www.apple.com/hk/en/macbook-pro/specs/
スクリーンキャプチャ画像の一部を参考に掲載します。このページでは主にアメリカ合衆国サイトの画像だけ(一部英国サイト)をお見せしています。
A 〜 S は、地域によって表記が異なる箇所に振った記号です。詳しくは、「ところ変われば:Appleの場合(1)」から「ところ変われば:Appleの場合(8)」までの投稿をご覧ください。
注:上に掲載したE・F・G・H・IとN・O・P・Q・Rを含む画像は英国サイトのものです。
1. 相違点の一覧表
上記 A 〜 T を一覧表にまとめました。
国・地域によって違っている点 | US | UK | AU | HK | |
A | スペリング | ||||
B | サイズの「by」とかけ算記号 | ||||
C | コンマ(文の構造) | ||||
D | コンマ・セミコロン(文の構造) | ||||
E | 略語のピリオド | ||||
F | オックスフォードコンマ | ||||
G | 形容詞・過去分詞 | ||||
H | コンマ | ||||
I | 数字・スペルアウト | ||||
J | スペリング | ||||
K | サイズの「by」とかけ算記号 | ||||
L | 数字と単位記号の形容詞 | ||||
M | 単語 | ||||
N | 摂氏・華氏 | ||||
O | 複合語のハイフン | ||||
P | メートル法とヤードポンド法 | ||||
Q | メートル/フィート換算 | – | |||
R | コロンの後ろの大文字 | ||||
S | 小数は単数か複数か | ||||
T | メートル法とヤードポンド法 |
表の上の段の「US」「UK」「AU」「HK」はそれぞれ以下を示しています。
- US:アメリカ合衆国サイト
- UK:英国サイト
- AU:オーストラリアサイト
- HK:香港サイト
また、ボックスの色は以下を意味しています。
- 白:アメリカ合衆国サイトと同じ表記
- 紫:英国サイトと同じ表記
- ペールオレンジ:オーストラリアサイトだけの表記
- 緑:香港サイトだけの表記
2. 米語と英語の違い
米語と英語という「言語の違い」が表記の違いの原因になっている項目は以下のとおりです。
米国 | 英国 | ||
A | スペリング | color | colour |
E | 略語のピリオド | U.S. | US |
F | オックスフォードコンマ | A, B, and C | A, B and C |
J | スペリング | color | colour |
M | 単語 | movie | film |
O | 複合語のハイフン | noncondensing | non-condensing |
A・J は、米語・英語でスペリングが異なる単語です。
E・F・O は、アメリカ合衆国と英国で、一般的な句読法(ピリオドやコンマなどの使い方)が異なるために生じる表記の違いです。後で述べるスタイルガイドとも関連しています。
M は、同じ事物に対して、アメリカ合衆国と英国で異なる単語を使うために生じる違いです。
3. アメリカ合衆国はヤードポンド法
N・P・T は、それぞれの社会でメートル法(国際単位系)とヤードポンド法のどちらが日常的に使われているか、で表記が分かれています。
米国 | 英国・オーストラリア・香港 | ||
N | 摂氏・華氏 | ° F (° C) | ° C (° F) |
P | メートル法とヤードポンド法 | feet | metres/meters (feet) |
T | メートル法とヤードポンド法 | pounds (kg) | kg (pounds) |
英国が1995年にメートル法に切り替えることを決定するまでは、どちらの国でもヤードポンド法を用いていました。現在英国では公式にはメートル法が用いられているので、アップル社MacBook Proのスペックでも、メートル法が主、ヤードポンド法が従に扱われています。また、温度のスケールも米国サイトが華氏、英国サイトが摂氏を主として扱っています。
4. スタイルガイドの違い
次に示した箇所は、文章を書く際に参考にしているスタイルガイドのルールの違いが原因と思われるものです。
米国 | 英国 | オーストラリア | ||
B | サイズの「by」とかけ算記号 | 1680 by 1050 | 1680×1050 | 1680 by 1050 |
I | 数字・スペルアウト | 4 arrow keys | 4 arrow keys | four arrow keys |
K | サイズの「by」とかけ算記号 | 5120 by 2880 | 5120×2880 | 5120 by 2880 |
L | 数字と単位記号の形容詞> | 35 mm | 35mm | 35-mm |
S | 小数は単数か複数か | 0.59 inch | 0.59 inches | 0.59 inch |
スタイルガイド(またはスタイルマニュアル)は、表現・言葉遣い・句読法・表記の仕方などについて一定のルールを記した本です。一般的に作家・記者・コピーライターなど文筆家は何らかのスタイルガイドを参考に執筆します。
スタイルガイドは、米国・英国それぞれに代表的な書籍があり、考え方や表記の仕方が互いに異なっている部分があります。また、文芸作品・記事・論文・科学技術など、分野ごとにも若干ルールが違っています。さらに、企業のパブリックコミュニケーション部門が独自のスタイルガイドを準備している場合もあります。
上の B・I・K・L・S の表記が違うのは、参照しているスタイルガイドのルールが異なっているからだと考えられます。
5. コピーライターの判断
アップル社は米国に本社があるので、最初の米国サイトのコンテンツ(あるいは原稿)が作られ、それを各国・地域の事情に合わせて調整・手直しする、という作業の流れになっているだろうと推察されます。
オーストラリアサイトには、米国とも英国とも表記が異なっている部分があります。これは、オーストラリア(またはオーストラリアサイト担当)のコピーライターまたは部門担当者の判断が反映されているのでしょう。
米国・英国 | オーストラリア | ||
C | コンマ(文の構造) | X, Y, with Z | X with Z and Y |
D | コンマ・セミコロン(文の構造) | U, V, with W; X, Y, with Z | U with W, and V, or X with Z and Y |
G | 形容詞・過去分詞 | full-size | full-sized |
H | コンマ | including | , including |
Q | メートル/フィート換算 | 10,500 metres | 10,668 metres |
R | コロンの後ろの大文字 | … : tested … | … : Tested … |
C・D・H については、確かにオーストラリアサイトの方が米国サイトより読みやすく、また合理的な表現になっています。オーストラリアサイトの書き方に比べて、米国サイトは曖昧さが残っています。
G は、ニュアンスの違いにこだわったのか、オーストラリアのライターさんの好みなのか。残念ながらわかりません。
Q は、フィートからメートルに換算するとき、「1フィート=0.3メートル」とするか、「1フィート=0.3048メートル」とするかによる違いです。
R は、他の箇所との統一感を保つための手直しかもしれません。もしかすると、何らかのスタイルガイドのルールに従っているのかもしれませんが、これも残念ながらわかりません。
6. 香港:さらなる違い
香港のサイトは、基本的に米国サイトと同じですが、下の箇所が米国と異なっています。
米国 | 香港 | ||
E | 略語のピリオド | U.S. | ANSI |
N | 摂氏・華氏 | ° F (° C) | ° C (° F) |
P | メートル法とヤードポンド法 | feet | meters (feet) |
Q | メートル/フィート換算 | – | 10,500 meters |
T | メートル法とヤードポンド法 | pounds (kg) | kg (pounds) |
E は、「U.S.キーボード」と「ISOキーボード」のどちらかを選べる、という内容が書かれた箇所です。「ISO」が組織名なので、同じく組織名である「ANSI」に差し替えたのでしょう。
N・P・Q・T は、ヤードポンド法ではなく、メートル法(国際単位系)を優先させています。
香港サイトでは、英国式スペリングではなく、米国式スペリングを採用しています。同じアジア圏のシンガポールの英語サイトは英国式です。
【参考】シンガポールサイト:MacBook Pro – Tech Specs (2017-9-2)
7. 最後に
サイト比較を始めたときは、ここまで長い記事になるとは思ってませんでした。見ていくと、いろいろ出てきて興味深かったです。
マーケティングの天才スティーブ・ジョブズの会社だけあって、市場とユーザーへの寄り添い方が、スペックにも表れているようです。
英語で閲覧できるサイトは他にもあります。ご興味のある方は一度のぞいてみてはいかがでしょう。
【参考】各国のサイト
カナダ:MacBook Pro – Tech Specs (2017-9-2)
ニュージーランド:MacBook Pro – Tech Specs (2017-9-2)
インド:MacBook Pro – Tech Specs (2017-9-2)
サウジアラビア:MacBook Pro – Tech Specs (2017-9-2)
南アフリカ共和国:MacBook Pro – Tech Specs (2017-9-2)
今回は、国・地域による違いに焦点をあてましたので、それ以外の点については触れていません。別の機会に調べてみたいと思います。
- 数字と単位の間が空いているものと空いていないものがあるが、そのルールは何か
- かけ算記号の「×」とアルファベットの「x」
- 温度記号の表記「10°C」「10 °C」「10° C」
など
【前回までのの投稿はこちら】
ところ変われば:Appleの場合(1)
ところ変われば:Appleの場合(2)
ところ変われば:Appleの場合(3)
ところ変われば:Appleの場合(4)
ところ変われば:Appleの場合(5)
ところ変われば:Appleの場合(6)
ところ変われば:Appleの場合(7)
ところ変われば:Appleの場合(8)