僭越ながら:日本語の名残のあるスペック(1)


日本ベースで発信される英語スペックには、日本語由来の誤用が見つかることがあります。単なる入力ミスの場合もあれば、日本語の発想で判断したために英語にはなじまない表記になったものもあります。ある製品のスペックを参考にしながら、日本語の影響を受けた英語表記の実例を見ていきましょう。


目次

  1. 全角文字の混入
  2. 句読点・記号の誤り
  3. 修正案

日本発の英語コンテンツには、日本ならではの表記がときどき見られます。ほとんどの場合、意味が通じないということはありません。しかし、スペックに奇異な表記があると、かすかに残念な印象を読者に与えてしまうでしょう。メインのコンテンツの質が高ければ高いほど、そのガッカリ感は大きいかもしれません。このような誤りはできるだけ少ない方が望ましいでしょう。

日本語の名残のあるスペック

1. 全角文字の混入

全角(あるいは2バイト)文字は、英語では使いません。英語のドキュメントの中で全角文字を使うとすれば、日本語の漢字やひらがな・カタカナなどを説明するときなど、極めて限られた場合しかありません。

英語のスペックの中に全角文字が混ざっているのは、日本語のテキストの中に、中国語の繁体字や簡体字の文字が特に理由もなく使われているようなものです。

他言語の文字混入のイメージ

今回調べたスペックには、次の図のように全角文字、すなわち日本語の文字や記号が含まれていました。

全角の混入

色をつけた箇所はすべて全角文字です。

慣れてくると英文の中の全角文字はほとんど目視で見つけ出すことができます。また、テキストを選択してみると、正しくは2文字で構成されているはずの記号が1文字になっていたりすることでも気づきます。

Microsoft Wordにコピーペーストして、文字コードを調べられるので[1]、当該箇所をチェックしてみました。

Word文書にペーストした「F(Fine」、N(Normal)」の丸括弧を「記号と特殊文字」で調べると、Unicode名が「Fullwidth Left Parenthesis」「Fullwidth Right Parenthesis」、文字コードが「FF08」「FF09」であることがわかります。「Fullwidth」は全角を意味しています。また、16進数の文字コード「FF08」「FF09」は、それぞれ全角の左括弧と右括弧(始め括弧と終わり括弧)です。[2]

コード名の確認(2)

同様に「‒20℃〜60℃」を調べてみます。

コード名の確認

「℃」は、Unicode名が「Degree Celsius」、文字コードが「2103」であることがわかります。「℃」は、温度の単位である「摂氏度」を一文字で表示するための記号です。摂氏度の単位を記号で表記する場合、英語では度の記号「°」とアルファベットの大文字「C」を組み合わせて「°C」とします

Unit Symbols. Several letterlike symbols are used to indicate units. In most cases, however, such as for SI units (Système International), the use of regular letters or other symbols is preferred.  . . . In normal use, it is better to represent degrees Celsius “°C” with a sequence of U+00B0 degree sign + U+0043 latin capital letter c, rather than U+2103 degree celsius. . . .

【訳】文字様記号には単位を示すために使われるものがある。しかし、SI単位などほとんどの場合、基本的なアルファベットや他の記号を使うのが望ましい。(…中略…)通常の使用では、摂氏度「°C」は、度の記号「U+00B0」と大文字の「C」を組み合わせて表し、摂氏度記号「U+2103」は使わない方が良い。(…以下略…)

【参考】Unicode Consortium, “The Unicode® Standard Version 9.0 – Core Specification, Chapter 22
Symbols
” (2017-11-9)

また、「〜」のUnicode名は「Fullwidth Tilde」で、文字コードが「FF5E」であることがわかります。「Fullwidth」とあることから全角であることがわかりますが、「fullwidth tilde ff5e 名称」で検索すると「全角チルダ」という名前の記号であることもわかります。

同様に、「battery) Approx. 290 g」の全角スペース、注釈記号の「※」も英語コンテンツでは使わない全角記号です。


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2. 句読点・記号の誤り

句読点・記号の選択を誤っている箇所があります。

誤った記号の選択

ひとつめの箇所では、前項の「1. 全角文字の混入」でも触れましたが、日本語の全角文字が使われています。全角の丸括弧は、半角の丸括弧(parenthesis)にすべきです。また、「、」は日本語の読点ですので、英語には使えません。ここはコンマ「,」を使うべき箇所です。

2番目の例「+2.0 to ‒2.0」と3番目の例「Wide angle: 1.7‒15.4」には同じ「フィギュアダッシュ」という記号「‒」が使われています。2番目ではマイナス符号を使うべきで、3番目では範囲を示すエヌダッシュを使うべきです。

4番目の例「3.0"」には、ストレート引用符「"」をインチ記号として使っていますが、インチ記号はできればダブルプライム「″」を使うのが望ましいです。

5番目の例も前項の全角で触れましたが、日本語の米印は英語では使えません。何も付けずに注釈番号のみにする、アステリスク「*」を使う、など英語として適切な表示に変える必要があります。


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3. 修正案

今回取り上げた箇所は、それぞれどの様に修正すればいいでしょうか。

まず、「F(Fine)、N(Normal)」は、次の修正が必要です。

  1. 全角の左括弧「(」を半角の左小括弧(left parenthesis)「(」と差し替える。
  2. 左小括弧(left parenthesis)の前に半角スペースをひとつ入れる。
  3. 全角の右括弧「)」を半角の右小括弧(right parenthesis)「)」と差し替える。
  4. 全角の読点「、」を半角のコンマ(comma)「,」と差し替える。
  5. コンマの後ろに半角スペースをひとつ入れる。

修正案:括弧・コンマ

次に、「‒20℃〜60℃」はどう修正すべきでしょう。

誤って全角文字が使われていることに加えて、「2. 句読点・記号の誤り」で指摘した「フィギュアダッシュ」が、マイナス記号として使われていますので、これも修正の対象になります。

  1. フィギュアダッシュ(figure dash)「‒」をマイナス符号(minus sign)「−」と差し替える。
  2. 全角の摂氏度記号「℃」を半角の度記号(degree sign)「°」と大文字「C」を組み合わせて「°C」とする。
  3. 全角の波線(波ダッシュ)「〜」を半角のエヌダッシュ(en dash)「–」と差し替える。

修正案:度記号・マイナス符号・エヌダッシュ

「battery) Approx. 290 g」の箇所は、全角スペースを半角スペースに変えます。

このサンプルは部分を切り取っているため、前後のつながりが見えませんが、コンマ「,」を追加し、「Approx.」の「A」を小文字に変えるという修正も必要です。

修正案:スペース

注釈番号に付けられている米印「※」は全角文字ですので英語では使いません。また、注釈番号は、該当箇所の右肩に番号のみ入れます。

注釈を付ける箇所が少ない場合、「*」「†」「‡」「§」「**」「††」「‡‡」「§§」などの記号をこの順で付けることもあります。

修正案:注釈番号

「+2.0 to ‒2.0」は、フィギュアダッシュ(figure dash)「‒」をマイナス符号(minus sign)「−」と差し替えます。

「Wide angle: 1.7‒15.4」は、フィギュアダッシュ(figure dash)「‒」をエヌダッシュ(en dash)「–」と差し替えます。

修正案:マイナス符号・エヌダッシュ

「3.0"」のインチ記号は、ストレート引用符「"」をダブルプライム「″」に変更します。

修正案:インチ記号

本サイトの以下の記事もご覧ください。


[1] 【参考】kazuakix の日記、『Word を使って文字コードを調べる』(2017年11月9日)

[2] 「Unicode16進: FF09」は全角の左小括弧。「Unicode16進: FF08」は全角の右小括弧。
【参考】Wiktionary, フリー多機能辞典。『』。Wiktionary, フリー多機能辞典。『』。(2017年11月9日)

お読みいただきありがとうございます。気が向いたらまた遊びに来てください。