「スペック英語」って何?


英語サイトの商品紹介や、印刷物の英語版カタログに記載されている、いわゆる製品「スペック」に使われている英語を、コンテンツのメインコピーと区別して呼ぶために、この「SpecAid – 世界標準のスペック英語」の管理人が考えた造語です。

通常の英語と、その「スペック英語」とは何が違うのか、と問われたら、特に違いはありません、とお答えするしかありません。しかし現実には、本来は同じであるはずの、コンテンツの英語と、スペックの英語が違っていることが、思いのほか多いのです。そして、違っているのは、英語で書かれている「内容」ではなく、その英語の「表記の質」です。


目次

  1. 表記の質って?
  2. メリットは何?
  3. テクニカル vs クリエイティブ


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表記の質って?

海外の日本語表記

海外旅行先でこんな日本語に出会ったことがあると思います。または、海外旅行のお土産のパッケージに、こういう日本語が書かれていたりします。

このサンプルは、よく見ると言葉遣いや文法上の誤りは、ほぼ無いと言っていいでしょう。「品質、」の読点は「製造の際は、」の方に移動した方がいいかもしれませんが、それ以外に決定的なミスは見当たりません。

しかし、全体に何かヘンテコな感じがします。使われている書体も微妙ですが、まず誤字が目につきますね。「おりす」「下い」。それと、「月日 ° 店名」です。

Adobe Illustratorでフォントを変更して再現してみました。

海外の日本語表記2

中黒「・」の代わりに入れられている「 ° 」が、「おりこす」「下きい」とあいまって、なんともいい香りを醸し出しています。

この例と同様に、日本発の英語コンテンツには、日本語発想の英語表記が混ざっていることがあります。表記におけるジャパニーズイングリッシュとでもいいましょうか。特にスペックでは多く目につきます。

海外の英語コンテンツでも、印刷組版のルールとは異なる「簡易な」処理をおこなっているものも数多くあります。その「簡易な」処理は、ある箇所では許容されても、別の場所では誤りとなる場合があります。ですから、海外のコンテンツだから大丈夫だろう、とコピーペーストなどで流用すると思わぬ事故を招くかもしれません。

意図しない「キズ」のような表記を避けるために、プロフェッショナルのめざすべき基準・水準を知っておくことは無駄ではないと思います。


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メリットは何?

スペックの表記の質を上げるメリットは何でしょうか。

フォトフレームイメージ

あるタイポグラフィックを中心としたサイトに、「タイポグラフィ的大惨事」という記事が投稿されています。店頭に展示されているフォトフレームには、サンプル写真が入れられていますが、もしそのサイズ表記がタイポグラフィックの面で間違いだらけだったら、見識のある消費者は商品自体の品質にも疑問を持つだろう、という意見です。

下記のような写真サイズ「4インチ×5インチ」の表記は「タイポグラフィ的大惨事」だというのです。

誤った表記

誤りを正した表記はこちらです。

正しい表記

(上記画像2点は、Dave Spencer氏の投稿をベースに当サイト管理人がアレンジしたものです)

参照サイト:Dave Spencer, Typographic Train Wrecks – Glyphic, https://type.fans/typographic-train-wrecks/ (2019-09-14), (リンク先を新しいウィンドウ/タブで開きます)Typographic Train Wrecks – Rubric, https://type.fans/typographic-train-wrecks/

「世界標準のスペック英語」も、まさにこのことをテーマにしています。

印象的なグラフィックとわかりやすく説得力のあるコピーで構成されたコンテンツ(またはカタログ)が、A社とB社から提供されていて、製品内容に甲乙つけがたい時、もしA社のスペックが異国情緒豊かなものだったら、B社よりも有利でしょうか。不利でしょうか。

英語は通じれば、ブロークンでもいい、とよく言われますが、それは会話のことであって、書かれた英語がブロークンでは、コミュニケーションは成立しにくいでしょう。


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テクニカル vs クリエイティブ

製品情報のコンテンツは、クリエイティブライティングとテクニカルライティングが出会うところと言えるのではないでしょうか。それは、完全に分離されているのではなく、製品や市場の性質に応じて、ほどよくブレンドされています。テキストだけでなく、イメージや図表も、クリエイティブな要素とテクニカルな要素の両方が混じり合っています。

スペックの資料や原稿は、技術者から提供される仕様書をベースにしています。そして、それらの資料が正しい英語の表記法にしたがっているとは限りません。しかし、技術情報のかたまり、つまりテクニカルライティングのその向こうにあるような情報は、クリエイティブ側からは、その表記の仕方についてもアンタッチャブルな素材として扱われることが多いのではないでしょうか。

スペックは、テクニカルライティングを超えて、技術情報のかたまりのようなものですが、「ライティング」の要素がゼロということはありません。あくまでも、英文法にのっとり、スタイルガイドを正しく適用しなければ、質の悪いスペックになるでしょう。

ルールを決めて運用すれば、スペックの記述は、効率的に質を上げることができると考えます。その結果生まれた時間とコストを、スペック以外のクリエイティブワークやソリューションにもっと費やすことも可能になるでしょう。

クリエイティブライティングとテクニカルライティングについては、当サイトの「スペース:割と度し難い?」ページの「クリエイティブ?テクニカル?」の項をご覧ください。

このページは2017年7月11日に投稿した内容に対し、7月13日に加筆・修正しました。「1. 表記の質って?」以降を追加しています。

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