「Power supply:」「Weight:」という風に、スペックの項目にコロン「:」が付いていることがあります。付いていない場合もあります。項目の後ろのコロンはどういう意味があるのでしょうか。また、どういう場合に付けるべきなのでしょうか。
目次
1. 項目の後ろにコロンがあったりなかったり
コロンがどのように使われているか、スペックの実例で見てみましょう。
コロンがある例
次の画像は項目にコロンが使われている例です。
iRobot, Roomba® 890 Robot Vacuum, (2017-10-10)
Bose, QuietComfort 35 Wireless Smart Headphones, (2017-10-10)
アイロボット社のロボット掃除機「ルンバ」のスペックは、「Package Dimensions:」「Package Weight:」「Robot Dimensions:」のように、項目の後ろにコロンが付けられています。「Specifications:」は項目ではなく、全体の見出しです。「18.7 in」「16.5 in」の「in」は長さの単位「inch(インチ)」の省略形です。「13.9 lbs.」の「lbs.」は重さの単位「pound(ポンド)」の記号です。
同様に、ボーズ社のワイヤレスヘッドホンのスペックでは、「Headphones:」「Audio cable:」「USB cable:」と製品・部品の名称にコロンが付いています。「7.1″」「6.7″」「3.2″」の「″」は長さの単位「インチ」を意味する記号です。「10.9 oz」の「oz」は、重さの単位「ounce(オンス)」を表す記号です。「H」「W」「D」はそれぞれ「height(高さ)」「width(幅)」「depth(奥行き)」の頭文字です。
コロンがない例
次の画像は項目にコロンが使われていない例です。
LG USA, LG LMC0975ST: 0.9 cu. ft. Capacity Countertop Microwave, (2017-10-10)
LG社の電子レンジのスペックです。項目とその内容を表組みにしています。ソースを見ると、実際に<table>タグが使われています。HTML5では、レイアウトのためにテーブルタグを使うべきではない、とされていますが、LG社のこのスペック表は<table>タグの本来の使い方に合致しています。
下の画像は、ブラックベリー社サイトのスペックです。このページは、黒い背景に、白またはライトグレーのテキストで表示されていますが、他の画像との統一のために反転加工を施しました。
BlackBerry KEYone, Specifications, (2017-10-10)
このブラックベリー社サイトでは、項目とその内容が、見出しと本文コピーのようなレイアウトになっています。内容の記述の仕方は、「Size」「Resolution」「Screen size」の項目のように縦にならべたリスト形式と、「Keyboard」「Navigation」「Dedicated keys」など項目のような文章の2パターンあります。
2. スタイルガイドに見るコロンの使い方
『シカゴマニュアル第16版』の「Colons(コロン)」の項には次のような記述もあります。
Use of the colon. A colon introduces an element or a series of elements illustrating or amplifying what has preceded the colon. . . .
【訳】コロンの使い方:コロンより前に書かれていることの例を示したり、さらに詳しく説明する(ひとつまたはいくつかの)要素をコロンの後ろに続ける時に使う。(…以下略…)
The Chicago Manual of Style, 16th Edition (Chicago and London: The University of Chicago Press – 2010)(項目6.59)
コロンの使用例として以下の文が掲載されています。
The watch came with a choice of three bands: stainless steel, plastic, or leather.
コロンの前の文で、腕時計のバンドが3種類から選べることがまず述べられ、コロンに続いて「3種類」の内容、ステンレススチール・プラスチック・革、が具体的に説明されています。
上記のような例は、『オックスフォード・スタイルマニュアル』では、リストを示すコロン、という説明をしています。
『オックスフォード・スタイルマニュアル』は、コロンの働きを、前提から結論へ、原因から結果へ、序論から要点へ、概論から具体例へ、と指し示すものだとして、同じ働きをする単語として以下を紹介しています。
単語 | 意味 |
---|---|
namely | すなわち、詳しく言えば |
that is | すなわち、言い換えると |
as | 次のように |
for example | 例えば |
for instance | 例えば |
because | なぜならば |
as follows | 以下のとおり |
therefore | その結果、それ故に |
その文例として以下が示されています。
There is something I must say: you are standing on my toes.
It is available in two colours: pink and blue.
French cooking is the resaurant’s speciality: the suprêmes de volaille Jeanette was superb.
To:
Subject:
Your Ref:
She has but one hobby: chocolate.
The weather grew worse: we decided to abandon the piano.
どれもしっくりこない
スタイルガイドでは、コロンの代わりにピリオドをつければ一つの文として成立する場合を中心に解説してあります。
そのため、スペックの項目に使われている「Model:」「Dimensions:」「Power consumption:」などのコロンの説明としてぴったり当てはまる記述になかなか出会えません。
スペックの項目のように、単語や断片にコロンが使われている例を『シカゴマニュアル』『オックスフォード・スタイルマニュアル』『APスタイルブック』から拾ってまとめてみました。スタイルガイド以外の例文も含まれています。
- 書物などのタイトルとサブタイトルを分ける時
- Gaga: Five Foot Two
- 会話の話者を示す
- Bailey: What were you doing the night of the 19th?
Mason: I refuse to answer that. - フォーマルな文書での呼びかけ
- To Whom It May Concern:
- 図表の注釈・情報源を示す
- Sources: CBS; Associated Press; Fox News
- Q&A(質問と回答)
- Q: Did you strike him?
A: Indeed I did.
最初の例はドキュメンタリー映画のタイトルで「Gaga」がメインタイトル、「Five Foot Two」がサブタイトルです。訳すと「ガガ:5フィート2インチ」という意味で、さしずめ「実寸大のレディーガガ」といった感じでしょうか。口語では「five feet」ではなく単数形の「foot」を使うことが多いようです。
映画「Star Wars: The Force Awakens」もタイトル「Star Wars」とサブタイトル「The Force Awakens」の間にコロンが使われています。
会話の話者を示す場合のコロンは、BaileyとMasonという二人の人物のセリフが、それぞれコロンの後ろに書かれています。
「To Whom It May Concern:」は、メールや手紙で相手の名前がわからない時や不特定多数に送る時の定型で、「ご担当社様」「関係各位」と同じような使い方をします。フォーマルな文書では、コンマではなく、コロンを使うとされています。
「Source:」または「Sources:」と同じく、「Note:」「Notes:」も図表の注釈を添える場合に使われます。
Note: Values presented are average changes.
「Q&A」は質問と回答を「Q:」「A:」で示しています。話者を示す場合に似ています。日本語としても定着していますね。
これまでに見てきたうちでは、「To:」「Subject:」「Source:」「Note:」あたりが、スペックの項目に近いように思えます。
しかしながら、やはりどれもしっくりきません。
3. ラベルのコロン?
いろいろ検索して、Q&Aサイト『Stack Exchange』に納得のいくコメントをようやく見つけました。
その質問内容も、ほぼズバリの「Colons after a single word (e.g. “Example:”)」です。「『Example:』など1単語の後ろのコロン」の使い方について、ルールがあるのか参考文献などを教えてほしい、というものです。
さまざまな回答コメントがありましたが、その中のMark Baker氏の説明が腑に落ちました。
文の意味と言葉の関係を説明するのが文法だが、それ以外にも言葉の関係性を示すことで意味を表現するものがあって、それはラベル・見出し・表組などによるページレイアウトである、とBaker氏は述べています。
. . . . A word (or a few words) followed by a colon is a common way of attaching a label to a piece of information. . . . It is a common and accepted way to create labels, but it is outside the scope of grammar because it is not part of a sentence construction. . . .
【訳】(…前略…)ひとつの単語(またはいくつかの単語による断片)にコロンをつけるのは、その後ろに続く情報にラベルを貼り付ける一般的な方法です。(…中略…)〔語句の後ろにコロンをつけるのは〕ラベルを作る方法として一般に受け入れられていますが、文構造の一部ではないので文法の範疇の外にあります。(…以下略…)
【参考サイト】Stack Exchange – English Language & Usage, “Colons after a single word (e.g. “Example:”)”
つまり、「[ラベル名]+[:]」という組み合わせは、それが情報のラベルであることを示しているのです。例えば、「300 g」の前に「weight:」と書けば、それは「300 g」に対して貼られたラベルであるというわけです。
各スペックの値に、「製品名」「消費電力」「外形寸法」というラベルを、ペタペタペタと貼っていくイメージが、わかりやすいと感じました。
「To:」「Subject:」「Source:」「Note:」などもラベル、あるいは項目名、であると考えられます。
コロンを使わない表現方法
スペックの項目のコロンは、句読法で規定される用途というよりは、書体を変えたり、改行したり、タブでスペースを空けたり、というタイポグラフィの視点に基づくレイアウト上の処理のひとつである、という考え方がとても受け入れやすいです。
言い換えると、必ずしもコロンを使う必要はないということです。
下図のように、コロン以外の方法でラベルに対してタイポグラフィカルな処理を施した場合は、コロンを使わなくてもよいと考えて問題ないでしょう。
『シカゴマニュアル』(The Chicago Manual of Style)『オックスフォード・スタイルマニュアル』(The Oxford Style Manual)『APスタイルブック』(The Associated Press Stylebook)については、このサイトの参考資料をご覧ください。