日本語ではアンドマークと呼ばれることが多いようですが、「&」の英語の名称は「ampersand(アンパサンド)」です。SNSでは文字数が限られていたり、キー1個で入力できたり、などの理由からアンパサンドは頻繁に使われています。視覚的な効果から、日本語の文章でもよく使われています。たいへん親しみのある「&」ですが、英語を母国語としている人でも正しい使い方を知っている人は多いとは言えないようです。
目次
アンパサンド“&”はSNSやブログなど文章だけでなく、企業名やブランド名、商品名などでもよく使われています。どのような場合に“and”の代わりに“&”が使えるのでしょうか。また、“&”の前後にスペースは入れるのでしょうか。入れないのでしょうか。
1. アンパサンドは“and”の意味
アンパサンド(ampersand)は、“and per se and”というフレーズに由来しています。“per se”は、それ自体で、という意味で、フレーズ全体は、「&はそれ自体でandを意味する」ということになります。これだけだと、わかったようでよくわかりません。英語版のWikipediaなどにはもう少し詳しい説明があるので、そちらを読むともう少し納得できかもしれません。[1]
そして、“and per se and”を発声するときの音から“ampersand”という単語が生まれたということです。
ともかく、“&”は“and”のことであるというわけです。
ところで、とてもシンプルに思える“and”ですが、実は罪深い、いや奥深い単語なのです。前後の脈略によっては、「と」や「そして」と訳すだけでは意味が通じないことが少なくありません。「しかも」「そうすれば」、ときには「それなのに」といった意味合いになることもあります。
ただし、アンパサンドを使うのはほとんどの場合、単純に名詞と名詞を対等につなぐときです。
- Country and Western
- Country & Western
2. アンパサンドが使えるとき
『シカゴマニュアル』『オックスフォード・スタイルマニュアル』などの主なスタイルガイドでは、文中ではアンパサンドは使わない、としています。企業名や広く定着している使い方のみ例外としています。
“Business Writers’ Blog”には、第1ルールとして、本文・見出し・タイトルでは、“and”の代わりに“&”は使わない、としています。そして例外として第2ルールを細かくリストアップしているので紹介します。(一部省略)
第2ルール:以下の場合のみアンパサンドが使える。
- 企業名の正式な表記:Crown & Co.など
- ロゴ・タイトル・名称などでデザイン要素として含まれている場合
- 小説・曲・アルバムなど創作物の題名
- 映画の脚本の共著を示すとき
- スペースが限られている場合のテーブルやカッコの中
- 広く使われている場合:R&D、rock & roll、country & westernなど
- リストの中のひとまとまりの項目であることを示すとき:Rock, pop, rhythm & blues and hip hop
- 短縮系の名称の一部:AT&T、A&Wなど
- 参考文献が共著の場合
- 名宛人が複数の場合:Mr. & Mrs. Pitcairn, or Judy & David Pitcairn
- “et cetera”の省略形“&c.”
【参考サイト】Business Writers’ Blog, “Ampersand Usage — “&” or “And”?” (2018-7-23)
スペックに関係があるのは、5項目めの「スペースが限られている場合のテーブルやカッコの中」でしょう。しかし、印刷物やそのデータから生成したPDFは該当しますが、ウェブサイトでは、そのようなギリギリの状況というのは考えにくいので、たいていの場合は“and”にするのが妥当だと思います。
7項目めのリストについて少し説明します。このリストには以下の4アイテムが列挙されています。
- rock
- pop
- rhythm & blues
- hip hop
3つめの“rhythm & blues”を“rhytm and blues”とすると下記のような文になって、“rhythm”と“blues”、“hip”、“hop”の関係がわかりにくくなってしまいます。
Rock, pop, rhythm and blues and hip hop
Rock, pop, rhythm & blues and hip hop
これを解消するには、アンパサンドを使って“rhythm and blues“がひとかたまりであることを示す以外に、コンマを使う方法があります。
このように“and”の前に置くコンマは「オックスフォードコンマ(Oxford comma)」と呼ばれることがあります。
Rock, pop, rhythm and blues, and hip hop
オックスフォードコンマについては本サイトの「ところ変われば:Appleの場合(3)」をご覧ください。
3. 前後にスペースを入れる?入れない?
ところで、前項の第2ルールで挙げられている例を見ると、アンパサンドの前後にスペースがあるものとないものが混在しています。
『シカゴマニュアル』など主なスタイルガイドのルールでは、スペルアウトされた単語の場合はスペースが必要で、頭文字など省略形をつなぐときはスペースを入れない、としています。
スペースを入れる | スペースを入れない |
---|---|
American Telephone & Telegraph | AT&T |
Research & Development | R&D |
Country & Western | C&W |
Rhythm & Blues | R&B |
ただし、『オックスフォード・スタイルマニュアル』は省略形でもスペースを入れる、としています。
名前文字参照は「&」
キーボードで簡単に“&”を入力できるので、通常のテキストの中で文字参照を使うことはあまりないと思いますが、このサイトでは頻繁に使っています。それは、文字参照を表示するときです。
たとえば「≤」の文字参照は「≤」ですが、この「&」は文字参照の「&」を使っています。そうしなければ「≤」と表示されてしまうからです。
『シカゴマニュアル』(The Chicago Manual of Style)と『オックスフォード・スタイルマニュアル』(The Oxford Style Manual)については、このサイトの参考資料をご覧ください。
[1] たとえば単語のスペリングを説明するとき、「ディー、オー、ジー⋯⋯ドッグ」のようないいかたをします。しかし、冠詞の“a”のときは同じ言い方だと「エイ⋯⋯エイ」となってわかりにくくなってしまいます。このとき“a per se a”と言うそうです。
“… This habit was useful in spelling where a word or syllable was repeated after spelling; e.g. “d, o, g—dog” would be clear but simply saying “a—a” would be confusing without the clarifying “per se” added. …”
【参考】Wikipedia contributors. “Ampersand,” Wikipedia, The Free Encyclopedia, (accessed July 24, 2018).