数字と単位記号の間には、スペースを入れるのが基本ですが、中には例外があります。「例外的にスペースを入れない」だけですめば話が早いのですが、ややこしいのは、入れるか入れないか、分野によってルールが分かれていることです。欧米のQ&Aサイトなどでしばしば見かけるのは、パーセント記号「%」と度の記号「°」です。
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この記事は2017年5月25日に公開した内容に対し、2018年9月4日に加筆・修正しました。「付くの?離れるの?はっきりして!」の引用文の和訳に誤りがあったので修正しています。
1. 「%」「°」は一般的にスペースを入れない
パーセントの記号「%」は、数字の後ろに付けて100に対する割合を示します。「7%」とあれば、全体を100とした時に7の比率である、という意味です。日本語でもそうですが、英語でも一般的に数字と「%」の間にスペースを入れません。
米国の『シカゴマニュアル第16版』では、「数字と%の間にスペースがないことに留意」と記されています。
. . . . Note also that no space appears between the numeral and the symbol %.
The Chicago Manual of Style, 16th Edition (Chicago and London: The University of Chicago Press – 2010) (項目9.18の抜粋)
英国の『オックスフォード・スタイルマニュアル』では、数字と「%」の間のスペースについての記述は見当たりませんが、関連項目の例文にスペースはありません。
Of the 34 respondents, most opt for an intermediate position, with 25 (74%) giving two or three positive answers out o the four. . . .
R. M. Ritter, The Oxford Style Manual (Oxford: Oxford University Press – 2003)(項目7.8の例文からの抜粋)
また、温度・角度・経緯度などの「度」にあたる「degree」の記号「°」も数字との間にスペースを入れません。
ただ、温度の記号「°C」「°F」[1]については意見が別れていて、後述の国際単位系(SI)を含めて次の3つのパターンがあります。
シカゴマニュアルなど
- 0°C
- 32°F
The AMA Handbook of Business Writingなど
- 0° C
- 32° F
BIPMなど国際単位系(SI)
- 0 °C
- 32 °F
参照サイト:Degree Symbol – Rules and Examples, www.really-learn-english.com
『シカゴマニュアル』(The Chicago Manual of Style)と『オックスフォード・スタイルマニュアル』(The Oxford Style Manual)については、当サイトの「このサイトの参考資料」ページをご覧ください。
2. 自然科学分野は「スペース入れる派」
一方、自然科学分野で計量標準の単位統一を目指している「国際単位系(SI)」はSI文書の中で、「〔%を使う時〕数字と記号%はスペースで分けられる」としています。(項目5.3.7)
. . . . When it is used, a space separates the number and the symbol %. . . .
BIPM, , http://www.bipm.org/en/publications/si-brochure/section5-3-7.html (accessed May 25, 2017), “SI Brochure: The International System of Units (SI), “The International System of Units – 9th edition – Text in English” (PDF), “5.4.7 Stating quantity values being pure numbers” (accessed February 8th, 2022).
同じく「°」については、温度を表す「°C」[2]の前にはスペースを入れるよう規定しています。(項目5.3.3)
The numerical value always precedes the unit, and a space is always used to separate the unit from the number. . . . This rule means that the symbol °C for the degree Celsius is preceded by a space when one expresses values of Celsius temperature t.
【訳】数値は常に単位の前に置き,数値と単位を分割するために空白(space)を用いる.(…中略…)この原則は,セルシウス度(degree Celsius)についても適用され,セルシウス温度tの値を表現するときには,その単位記号である°Cの前に空白を挿入する.
BIPM, , http://www.bipm.org/en/publications/si-brochure/section5-3-3.html (accessed May 25, 2017), “SI Brochure: The International System of Units (SI), “The International System of Units – 9th edition – Text in English” (PDF), “5.4.3 Formatting the value of a quantity” (accessed February 8th, 2022).
一方、角度と経緯度の場合は、数字と「°」の間にスペースは入れない、としています。
付くの?離れるの?はっきりして!
『オックスフォード・スタイルマニュアル』では、自然科学分野の執筆者は、人文科学分野の執筆者とは異なる慣習を持っている、とはっきり述べられています。そして、それぞれの分野の基準に従うべき、としています。(Chapter 12 Science and mathematics, 12.1.1 Official guidelines)
『シカゴマニュアル』も『オックスフォード・スタイルマニュアル』も、科学技術分野においては国際単位系(SI)が用いられていることを紹介しています。また、その概要を数ページに渡って説明した上で、詳細はBIPMなどのガイドラインを参照するよう進めています。
「%」と「°C」に関してもスペースが必要、とする国際単位系(SI)の規定について、『シカゴマニュアル』は、「一般的な用法に反して(contrary to general usage)」いる例外的なルール(exceptions)だと表現しています。SI単位のスペーシングに関する項に下記のような記述があります。科学技術分野を除くと、「%」と「°C」でスペースを入れる例はあまり見当たらないので、『シカゴマニュアル』もそれをよしとする、ということでしょう。
. . . ; however, contrary to general usage, SI usage stipulates a space before a percentage sign (%) or before a degree symbol used with a C . . . Many publications do not observe these exceptions, and Chicago does not require them in its publications.
【訳】… しかし一般的な使用法に反して、国際単位系(SI)の使用法では、パーセント記号(%)および「C」と一緒に使われる度の記号の前にスペースを置くことが明記されています。(…中略…)この〔「%」と「°C」でもスペースを入れるという国際単位系の〕例外的ルールを守っていない出版物は多く、シカゴ大学出版局もその例外的ルールを必要としません。
… 主に度の記号と一緒に使われる例を除いて、数字と省略形の間には、たいていの場合スペースが置かれます(…中略…)この〔「%」と「°C」でもスペースを入れる〕例外的ルールを守っていない出版物は多く、シカゴ大学出版局もその出版物において、その例外的ルールを必要としません。
The Chicago Manual of Style, 16th Edition (Chicago and London: The University of Chicago Press – 2010) (項目10.61)
で、結局、スペースを入れるのか、入れないのか。
私見ですが、海外向けコンテンツの表記法を検討する上で、「°」と「C」を離すスタイルは選択肢に入れないのがよいのではないでしょうか。BIPMが「°C」をひとつの単位記号と定義していることを考慮に入れると、あえて「° C」とする必要はないと思います。[3]
つまり、海外向けコンテンツでどちらのルールを採用するか、を決めるポイントのひとつとしては、こういうことが言えます。
数値と「%」、または数値と「°C」の間に、
- 自然科学分野では、スペースを入れる。
- それ以外では、スペースを入れない。
クリエイティブ?テクニカル?
ここで、「クリエイティブライティング」と「テクニカルライティング」という考え方について説明しているサイトを見つけたので、その一部をご紹介します。
小説家、脚本家、詩人、コピーライター。創造力が求められる、こういった分野の文章の書き方を、「クリエイティブライティング」といいます。
(…中略…)
感情や憶測を交えずに、事実を正確に書く書き方を、「テクニカルライティング」といいます。
テクニカルライティングとは:日立テクニカルコミュニケーションズ(http://www.hitachi-tc.co.jp)(2019年4月1日付けで(株)日立インフォメーションエンジニアリングに合併)
このサイトによると、クリエイティブライティングの才能には、創造性、独創性、感性、時代性が求められます。テクニカルライティングには、専門外の人にも技術情報を正確にわかりやすく伝える技術が求められます。
あなたのコンテンツはどちらの書き方でしょうか。それは、コンテンツの目的・対象、扱っている商品やサービスの属する市場・業界などの要素から決められるべきだと考えます。
現実的には、クリエイティブライティングとテクニカルライティングがブレンドされた書き方になっていると思います。また、商品や業界に応じて、そのブレンドの比率は変わるでしょう。ファッション分野はクリエイティブな要素が多くを占めているでしょうし、機械部品の場合は、テクニカルライティングの要素の比重が大きくなります。
温度の単位について、自然科学分野と人文科学を含むそれ以外の分野で、ルールが別れていることを紹介しました。製品情報ページやカタログは、このふたつの分野が出会う場所と言えます。それが、(欧米発のコンテンツでも)スペックの表記にバラツキが多い理由のひとつではないかと考えます。
3. 変換せずに必ず半角で入力する
「%」「°」は半角で入力します。「パーセント」を変換した全角の「%」や「ど」を変換した全角の「℃」は、英語コンテンツでは使えません。
HTMLで記述する場合、「°」は文字実体参照の「°」を使います。「°C」は「°C」と入力します。
数字と記号の間にスペースを入れる場合、数値と単位の間で改行されないように、ノーブレークスペースを使います。「32 °C」と表示したいときは、「32 °C」と入力します。
[1] 日本の日常生活では、温度を示す単位としてセルシウス度「°C」が用いられています。欧米の国・地域のなかには、ファーレンハイト度「°F」や、「°C」「°F」の両方が日常生活で用いられています。一方、世界の自然科学分野では絶対温度(単位:ケルビン)が用いられています。国際単位系(SI)の基本単位のひとつで、単位記号は「K」です。
[2] ファーレンハイト度(華氏・カ氏)の単位記号「°F」の場合も同様です。
[3] BIPMは、「C」(クーロン)を電荷・電気量を表す記号、「F」(ファラド)を静電容量を表す記号、として使用を認めています。無用の混乱を避けるために、このことも「°」と「C」「F」を離すスタイルを選択肢から外した方がいいと考える理由のひとつです。