2分の1や3分の2などの分数は、「½」「⅔」というふうに数字と線を使って表記します。この数字と線による分数の表し方には何通りかあります。どれをどういう場合に使うのが適切なのでしょうか。
目次
長さをインチで示す時、1より小さい値は、「0.2」「0.25」「0.5」のような小数ではなく、「⅕」「¼」「½」と分数を使うのが一般的です。例えば外形寸法などで、「124 × 311 mm」というメートル法の値を、単位をインチに変えて示す場合は、「4⅞″ × 12¼″」と分数を使って表記します。
インチ記号については本サイトの記事「インチ記号と引用符たちの三角関係」をご覧ください。
また、掛け算記号についても「掛け算記号:xかけるyを書ける?」という記事を書いていますので、よろしければ覗いてみてください。
1. 分数の表し方には何通りかあります
『シカゴマニュアル』などのスタイルガイドを参照しながら、タテに並べる・ヨコに並べる・斜めに配置する、という3パターンをご紹介します。
分子分母をタテに並べる表し方
算数・数学でおなじみの水平のバーの上下に数字を配置する表し方です。
$\frac{3}{4}$
英語では「stacked fraction」「en fraction」「nut fraction」「vertical fraction」などと呼ばれています。「stacked fraction」は「重ね分数」、「en fraction」と「nut fraction」は「半角分数」とでも訳せるでしょうか。[1]
主に算数や数学の分野で、数式を記述する時にこのスタイルが使われます。
$\frac{3x+\frac{2}{5}}{4y-7z}$
後からご紹介する「一体型の分数」でこのスタイルの文字を持つフォントを使うと、1文字分の幅で済むので、スペースが限られている場合にも便利です。しかし、このスタイルの分数を持つフォントは限られています。
Adobe InDesignやIllustratorなどで作業する場合も、HTML文書中でも、このスタイルの分数をテキストとして記述するのは簡単ではありません。
【画像の引用元】Wikipedia contributors. “Inch.” (2018-3-23)
スラッシュ「/」を使って1行で示すスタイル
数字とスラッシュ「/」を使い、[分子]/[分母]の順番で分数を表します。
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パソコンのキーボードで簡単に入力できるので、特にネット上では最も目にする分数の表示方法です。
水平方向に文字を並べるので、「horizontal fraction」(ヨコ方向の分数)と呼ばれています。[2]
米国の代表的スタイルガイドである『シカゴマニュアル』の数式に関する章には、文章の中で分数を示すときはこのスタイルで記述すると書かれています。
Fractions in text. Fractions are set in text with a slash to separate the numerator and denominator:
1/2, 2/3, 1/10, 97/100, π/2, 11/5, a/b.
【訳】文章中の分数:文章中では、分子と分母を区切るスラッシュを使って組まれる:
1/2, 2/3, 1/10, 97/100, π/2, 11/5, a/b.
The Chicago Manual of Style, 16th Edition (Chicago and London: The University of Chicago Press – 2010)(項目12.45)
このスタイルの弱点は、とても簡単に入力できる反面、分子・分母が他の文字と同じ大きさなので分数として認識しにくいということです。『Fonts.com』というサイトでIlene Strizver氏は、このスタイルは最後の手段として考えるべきだ、と言っています。
Horizontal fractions are harder to read than diagonal fractions, due to their full-sized numerators and denominators. They take up considerably more space and are rather clumsy in appearance. They should be considered a last resort rather than a first choice.
【訳】「ヨコ方向の分数」は「斜めの分数」よりも読みにくい。分子と分母がテキスト中の他の文字と同じ大きさだからだ。そのため、とても多くのスペースが必要で、見た目にも不恰好である。「ヨコ方向の分数」は第一候補ではなく、最後の手段とするべきである。
Fonts.com, “Fractions” (2018-3-19)
例えば、以下のように分子分母の桁数が大きいと、ヨコ方向の分数はかなりスペースを食うし、見た目にもよろしくない、ということです。
Horizontal fraction: 18/125 (= 0.144)
Diagonal fraction: 18⁄125 (= 0.144)
一体型の斜めの分数
英語では「diagonal fraction」「em fraction」と呼ばれます。「diagonal fraction」は「斜めの分数」、「em fraction」は「全角分数」といった意味です。
「½」「⅓」「¾」といった基本的な分数については、多くのフォントで一組にまとめられた一体型の分数が準備されていて、1文字で表示することができます。
1文字で分数を表すことから「case fraction」「one-piece fraction」などとも呼ばれます。
macOS (Mac OS, Mac OS X)の場合、メニューバーの入力メニューにある「絵文字と記号を表示」から一体型の分数が選べます。
- 入力メニューから「絵文字と記号を表示」を選び、
- 「数字」のグループで表示される文字の最後の一体型の分数が表示されます。
- フォントによっては「斜めの分数」ではなく、「タテの分数」が準備されています。
Windowsでは、「文字コード表」で選べます。
基本の分数「¼」「½」「¾」はすぐに見つかると思います。
「⅘」「⅚」「⅞」などの分数は、表の下の方に行くとあります。
macOSの「絵文字と記号」の「数字」、Windowsの「文字コード表」で提供されているのは、
分母が「2」「3」「4」「5」「6」「8」の分数です。つまり、2分割から6分割と8分割までと5分割に対応しています。
Windowsの「文字コード表」には、さらに「⅚」「⅑」「⅒」がありますが、macOSの入力メニューの「絵文字と記号」では提供されていません。
HTMLでは特殊文字で一体型の分数を表示できます。
分数 | 数値参照 (10進数) | 数値参照 (16進数) | 名前参照 |
---|---|---|---|
¼ | ¼ | ¼ | ¼ |
½ | ½ | ½ | ½ |
¾ | ¾ | ¾ | ¾ |
⅓ | ⅓ | ⅓ | ⅓ |
⅔ | ⅔ | ⅔ | ⅔ |
⅕ | ⅕ | ⅕ | ⅕ |
⅖ | ⅖ | ⅖ | ⅖ |
⅗ | ⅗ | ⅗ | ⅗ |
⅘ | ⅘ | ⅘ | ⅘ |
⅙ | ⅙ | ⅙ | ⅙ |
⅚ | ⅚ | ⅚ | ⅚ |
⅛ | ⅛ | ⅛ | ⅛ |
⅜ | ⅜ | ⅜ | ⅜ |
⅝ | ⅝ | ⅝ | ⅝ |
⅞ | ⅞ | ⅞ | ⅞ |
⅐ | ⅐ | ⅐ | — |
⅑ | ⅑ | ⅑ | — |
⅒ | ⅒ | — | — |
HTML4までの文字実体参照では基本の「¼(¼)」「½(½)」「¾(&fac34;)」の三つしか使えませんが、HTML5の名前文字参照[3]では上記の表の「⅓(⅓)」から「⅞(⅞)」まで使えるようです。[4] しかし、どういうわけか本サイトではうまく表示されませんでした。
ところで、本投稿中の「斜めの分数」(一体型の分数)の見え方がまちまちになっているのを見て、疑問をいだいている方がいらっしゃるかもしれません。
実はフォントによって提供されている文字の種類が異なっているため、指定フォントにその分数がない場合は、他のフォントに置き換えられてしまうためです。
同じフォントでほかの分数も表示するためには、スタイルシートやAdobe InDesign、Illustrator上で合成して対応する必要があります。
2. スタイルガイドの説明
前項で、分数の表示の仕方のうち、数字を使った3通りを紹介しました。その他にも分数は「one half(= ½)」「two thirds(= ⅔)」と単語にスペルアウトする表現もあります。
『シカゴマニュアル』の数字に関する章では、分数のスペルアウトについて次のような箇所があります。
Simple fractions.[5] Simple fractions are spelled out. . . .
She has read three-fourths of the book.
Four-fifths of the students are boycotting the class.
. . .
【訳】分数:分数はスペルアウトされる。
彼女はその本の4分の3(three-fourths)を読んだ。
学生たちの5分の4(four-fifths)が授業をボイコットした。
(…以下略…)
The Chicago Manual of Style, 16th Edition (Chicago and London: The University of Chicago Press – 2010)(項目12.45)
英国の代表的なスタイルガイド『オックスフォード・スタイルマニュアル』の「数字(Numbers)」の章にも同様の記述があります。
Spell out simple fractions in textual matter, for example one-half, two-thirds, one and three-quarters. . . .
【訳】文章中で分数は、“one-half”“two-thirds”“one and three-quarters”のようにスペルアウトする。(…以下略…)
R. M. Ritter, The Oxford Style Manual
(Oxford: Oxford University Press – 2003)(項目7.3からの抜粋)
また、同じ箇所には以下のように書かれています。非専門分野のコンテンツの本文では、複雑な分数にはヨコ方向の分数を使うとしています。そうすれば行間に余分なスペースが不要になります。また、複雑な分数の場合、小数にするのもよいと言っています。
In statistical matter use one-piece (cased) fractions where available (½, ⅔, ¾, etc.). . . . In non-technical running text, set complex fractions in font-size numerals with a solidus between (19/100). . . . they represent a quantity without needing extra interlinear space to be displayed on more than one line. Decimal fractions are similarly useful: 12.66 rather than 12 2/3, 99.9 rather than 99 and 9/10.
【訳】統計文書では可能なときには一体型の分数(½、⅔、¾など)を使う。(…中略…)非専門分野の本文中では、複雑な分数は本文と同じフォントサイズの数字とスラッシュで組む(19/1000)。(…中略…)そうすることで、行間に1行分以上の余分なスペースを追加せずに分数の値を示すことができる。複雑な分数の代わりに小数も有効である:「12 2/3」ではなく「12.66」、「99 9/10」ではなく「99.9」という具合に。
R. M. Ritter, The Oxford Style Manual
(Oxford: Oxford University Press – 2003)(項目7.3からの抜粋)
『シカゴマニュアル』のスラッシュ「/」に関する説明の中に、スラッシュが分数の水平のバーの代わりに使えることが書かれています。また、一体型の分数がある場合は、ヨコ方向の分数ではなくそちらが使われる、としています。
Slashes as fraction bars. A slash can be used to mean “divided by” when a fraction bar is inappropriate or impractical. When available, single-glyph fractions may be used (e.g., ½ rather than 1/2).
【訳】分数線としてのスラッシュ:分数の横棒が適切でなかったり実用的でない場合、スラッシュを「〜分の」の意味で使うことができる。可能な場合は、一体型の分数(例えば、1/2ではなく½)が使われる。
The Chicago Manual of Style, 16th Edition (Chicago and London: The University of Chicago Press – 2010)(項目6.108)
整数との組み合わせはどうするか
ところで、1より大きい数を整数と分数を組み合わせた「帯分数」(たいぶんすう)として示す場合があります。。帯分数は、英語では「mixed fraction」といいます。
タテ・ヨコ・斜めの各スタイルでは次のよう表記します。
- タテ
- $2\frac{3}{4}$
- ヨコ
- 2 3/4
- 斜め
- 2¾
帯分数の表記について『シカゴマニュアル』には次のような記述があります。
Whole numbers plus fractions. Quantities consising of whole numbers and simple fractions may be spelled out if short but are often better expressed in numerals (especially if a symbol for the fraction is available, as in the examples here). . . .
【訳】整数プラス分数:整数と分数からなる数は、短いものであればスペルアウトされるが、数字で表した方が良い場合が多い(特にここで示されているの例文のように一体型の分数が使える場合は)。(…以下略…)
The Chicago Manual of Style, 16th Edition (Chicago and London: The University of Chicago Press – 2010)(項目9.15)
「ここで示されている例文」は以下のとおりです。
- We walked for three and on-quarter miles.
- I need 6⅞ yards of the silk fabric.
- Lester is exactly 3 feet 5¼ inches tall.
- Letters are usually printed on 8½″ × 11″ paper.
3. スペックではヨコ方向の分数が一般的
ここまでに紹介したスタイルガイドの説明などを参考に、分数の表記スタイルの使い分けをざっくりとまとめると以下のような感じです。
- タテの分数は主に数式で使う。
- スペースが限られているときにタテの分数を使う。
- 本文中では「one half」「two thirds」のようにスペルアウトする。
- 統計文書などでは斜め(一体型)の分数を使う。
- 本文中で数字で示す場合、可能であれば斜めの分数を使う。
- 本文中の帯分数は、可能であれば斜めの分数を使う。
- 本文中で斜めの分数が使えないときヨコ方向の分数を使う。
- 非専門分野のコンテンツの本文中で分数の桁数が多い時は、ヨコ方向の分数を使う。
さて、実際のスペックではどのスタイルが使われているでしょうか。
結論から言いますと、もっとも目にするのはヨコ方向の分数です。
商品の外形寸法のインチ表示で分数が使われることが多いのですが、どうしても数字が複雑になるということが、理由のひとつだと推測されます。もうひとつは、数字を見せることがメインなので、文章中でないこともあり、大きな数字の方が見やすい、という判断があるのかもしれません。さらに、入力しやすい、というのも大きな要因のひとつでしょう。
この例のように、整数と分数をハイフン「-」でつなぐケースが極めて多いのですが、当サイトが参考にしているスタイルガイドのほとんどが、ハイフンを使わずに表記しています。[6]
【引用サイト】Whirlpool, 2.1 cu. ft. Over the Range Microwave with Steam Cooking (accessed March 19, 2018).
斜めの分数(一体型の分数)を使っている例もありました。しかし、ネット上をあちらこちら探し回ってようやく見つけた、という感じです。
【引用サイト】RH, Gramercy Mirrored Desk (accessed March 23, 2018).
レシピ集では斜めの分数が標準になっているようです。「tsp」は「ティースプーン(teaspoon)」、「tbsp」は「テーブルスプーン(tablespoon)」の略です。(「チキンカツカレー」って最近では英語になってるんですねぇ)
【引用元】BBC Good Food, Chicken katsu curry recipe (accessed March 23, 2018).
【引用元】Leanne Brown,
Good and Cheap: Eat Well on $4/Day (accessed March 23, 2018).
【画像の引用元】The Typekit Blog, “Choosing and pairing typefaces for cookbooks” (2018-3-23)
『シカゴマニュアル』(The Chicago Manual of Style)と『オックスフォード・スタイルマニュアル』(The Oxford Style Manual)については、このサイトの参考資料をご覧ください。
[1] 【参考】『英辞郎 on the WEB:アルク』「nut fractionの意味・用例」
[2] なんとも紛らわしいことに、タテの分数を「horizontal fraction」と呼ぶ場合もあるようです。
【参考】Google Books, The Fundamentals of Typography – Gavin Ambrose, Paul Harris;
Google Books, The Visual Dictionary of Typography – Gavin Ambrose, Paul Harris
[3] HTML4までは「文字実体参照」(character entity references)と呼ばれていたものが、HTML5では名前文字参照(named character references)へと改称されたようです。うかつにも、この記事を書くまで知りませんでした。
【参考】Qiita「HTML5の名前文字参照の一覧は、公式ページからJSONデータで取得できる」
[4] 【参考】World Wide Web Consortium (W3C), “Characters Ordered by Entity Name”; W3Schools, “HTML Entities”.
[5] 「simple fraction」は「common fraction」「vulgar fraction」と同義語で、分子・分母で示される分数のことです。
「fraction」だけでも分数という意味ですが、小数を「decimal fraction」と言うため、小数と明確に区別する必要があるときに「simple」「common」「vulgar」を付けます。さらに、複雑な分数と区別して、「分子・分母が整数の分数」を意味する意図で「simple fraction」「common fraction」「vulgar fraction」という場合もあります。
【参考】Oxford Dictionaries, “vulgar fraction”; 『例文集.net』「4.4 分数 – 数式の英語」; Merriam-Webster, “Common Fraction”.
[6] 『ASSM.us』というサイトには、仮分数ではなく帯分数であることを明確にするためにハイフン(この記事ではハイフンとダッシュを混同していますが)を使っている旨の記述があります。スペックでハイフンが使われているのはおそらく同じ理由からでしょう。
“[…] the improper fraction 3/2 can be written as the equivalent mixed fraction 1 1/2. […] The dash is not a subtraction sign; it is just to clarify the mixed fraction 1-1/2 and not the improper fraction 11/2.“
【参考】ASSM.us, “Simplifying Mixed Fractions”