部品やアクセサリーの個数をスペック中で表示することがよくあります。「1」とか「5」とか個数を、単純にアラビア数字で書き入れるだけですむように思えます。しかし、事例を比べてみると、結構いろいろな表記の仕方があることに気づきます。
目次
アイテムとその個数だけを一覧表にする場合は、表の項目を“Quantity”として、個数はアラビア数字だけを記入していけばいいでしょう。
スペックの中で、たとえば同梱アクセサリーをリストアップし、それぞれの個数を添える場合は、どのような表記の仕方があるのでしょうか。オーディオ製品などの実例をいくつか比べてみました。
1. 数をアイテムのうしろに添える
アイテムのうしろに個数を示すときの表記の仕方を3種類紹介します。
数字をカッコに入れる
個数をカッコの中に入れて、アイテムのうしろに置くパターンです。
下の画像は、オーディオビジュアル製品の同梱アクセサリー(付属品)のリストの一部を抜き出しました。
【引用サイト】Sony, Help Guide, “Supplied accessories” (2018-6-28)
アイテムとカッコの間にはスペースを入れるのが正しい表記法です。
“FM wire antenna”のうしろに“aerial”という単語がカッコに入れられています。これは、”wire antenna“を”aerial“と別の呼び方をする場合があるので補足的に表記しているのです。カッコ部分がふたつ連続していますが、この間にもスペースが必要です。
カッコとスペースについては、本サイトの「括弧:カッコつけたちは離れて並ぶ」をご覧ください。
掛け算記号を使う
個数と掛け算記号「×」を組み合わせて、アイテムのうしろに置くパターンです。
下の画像はゲーム機のスペックの抜粋です。
【引用サイト】PlayStation, PS4, “Tech specs” (2018-6-28)
もうひとつ掛け算記号との組み合わせパターンを紹介します。オーディオビジュアル製品のスペックに記載されているオーディオ入力端子に関する情報の一部です。
【引用サイト】Arcam, AV Receiver, “AVR400” (2018-6-28)
掛け算記号を数字の前に付けてアイテムの個数を示しています。上の例では掛け算記号「×」ではなく、小文字のエックス「x」で代用しています。
このサンプルでは、掛け算記号と数字の間にはスペースが入っていません。米国の代表的なスタイルガイド『シカゴマニュアル第16版』の「Basic spacing in mathematics(数学でのスペーシングの基本)」の項には次の記述があります。
. . . . No space follows a binary operation or relation sign when it is modifying a symbol (i.e., used as an adjective):
−1, +∞, ×5, <7, . . .
【訳】(…前略…)演算記号や符号が数字や記号を修飾している(つまり形容詞として使われているとき)スペースは入れない。
−1, +∞, ×5, <7,
(…以下略…)
The Chicago Manual of Style, 16th Edition (Chicago and London: The University of Chicago Press – 2010)(項目12.61)
スペースのない「×5」はこちらのルールに従ったものかもしれません。「×」と数字のあいだにスペースを入れている方は、「アイテム × 個数」と数式と同じように考えているのだと思います。
掛け算記号については、本サイトの「掛け算記号:xかけるyを書ける?」「掛け算記号:12倍ズームは×12か12×か」もご覧ください。
『シカゴマニュアル』(The Chicago Manual of Style)については、このサイトの参考資料をご覧ください。
掛け算記号と一緒にカッコに入れる
上記の2パターンを組み合わせた記述法です。
下の画像はカメラの同梱アクセサリーリストからの抜粋です。
【引用サイト】Fujifilm Global, “Supplied Accessories” (2018-6-28)
こちらの事例ではエックスの小文字ではなく掛け算記号が使用されています。
2. 個数をアイテムの前に記載する
アイテムのうしろではなく、頭に個数を示すパターンもあります。
個数をアイテムの前につける
個数をアラビア数字でアイテムの前に置くパターンです。
下の画像はロボット掃除機のスペックに記載されている同梱品リストです。
【引用サイト】Sony, Help Guide, “Supplied accessories” (2018-6-28)
これはアラビア数字で表記されていますが、それぞれスペルアウトする場合と基本的な考え方は同じです。2個あるアクセサリーは複数形になっていることに注意してください。
数字をカッコに入れる
カッコに個数を入れてアイテムの頭に置くパターンです。
下の画像は業務用プロジェクターのスペックです。アナログ音声入力端子の種類と系統数が記されています。
【引用サイト】Crestron Electronics, Inc., “HD-WP-4K-401-C” “Naim Supernait 2” (2018-6-28)
掛け算記号の代わりに小文字のエックスが使われています。
掛け算記号を使う
個数と掛け算記号「×」を組み合わせて、アイテムの頭に置くパターンです。
下の画像はオーディオアンプのスペックです。アナログ音声入力端子の種類と系統数が記されています。
【引用サイト】Naim Audio, Integrated Amplifier, “Naim Supernait 2” (2018-6-28)
掛け算記号の代わりに小文字のエックスが使われています。
掛け算記号を数式に使うときには、数字と掛け算記号の間にはスペースを入れます。[数字] × [アイテム名]というパターンでは、「4 × 5」などの場合と同様に、掛け算記号の前後にスペースを入れることが多いようです。
掛け算記号との組み合わせをもう1例見てみましょう。パソコン用サウンドカードのスペックです。
【引用サイト】Creative Labs, “Sound Blaster Z” (2018-6-28)
「3.5mmジャック」用の端子を1系統備えていることが示されていますが、アイテム名の頭に数字が含まれているため、“1 × 3.5 mm”と寸法表示のようにも見えます。もちろん、前後の流れから“1 ×”が個数を示していることはすぐにわかるとは思います。しかし、明瞭であることがスペックに求められる重要なポイントのひとつであることから、この製品の場合、表記の仕方に再考が必要かもしれません。
3. 個数の入れ方のまとめ
個数表示のいろいろなパターンを見てきました。スタイルの問題ですので、どれが正しくてどれが誤りということはありません。
ただ、読みやすさと明瞭であることがスペックには求められますから、その観点から独断で順番をつけてみました。
順番 | 表記パターン |
---|---|
A | 3.5 mm stereo (TS) × 2 |
B | 3.5 mm stereo (TS) (×2) |
C | 2 × 3.5 mm stereo (TS) |
D | 3.5 mm stereo (TS) (2) |
E | (2) 3.5 mm stereo (TS) |
F | Two 3.5 mm stereo jacks (TS) |
G | 2 3.5 mm stereo (TS) |
検討に際し、“3.5 mm stereo (TS)”という架空のアイテム名を設定しました。あえて数字で始めて、カッコに入れた補足情報をうしろに付けました。実際にこのようなパターンのアイテム名が出現する率は低いと思いますが、仮にそのような場合でも、読みやすさがあまり損なわれないパターンを探ってみました。
上の表は、アイテムがどのように表記されていても読みやすく、意味も明瞭に伝わるだろうという順番に並べています。
スペックやリストに、数字で始まるアイテム名がない場合は、CやF、Gが上位に移動するでしょう。
また、オーディオビジュアル機器の端子の数など、アイテムの数が重要な場合は、CやEを最初に検討すべきかもしれません。
ほとんどのアイテムが1個で、複数のアイテムが数えるほどしかない、という場合は、基本的にアイテムに個数は入れずに、複数ある場合のみAやBやDのパターンで例外的に個数を表記する方が、見た目にごちゃごちゃしないと思います。