サイトの評価を高める英語スペック作成のための10のポイント


製品情報サイトであれ、印刷物であれ、英語でスペック(仕様)を掲載するにあたって、留意すべきポイントをまとめてみました。特に1番目から6番目のポイントは最低限のクオリティを保つために徹底すべきです。もしその5項目の中に現時点で実施されていない項目があるなら、英語スペックとしては赤信号が灯っていると考えるべきでしょう。また、7番目と8番目に不安を覚えるのであれば黄信号が灯っていると言えます。9番目と10番目を徹底することで、品質の最低ラインをクリアするだけでなく、顧客維持やコンバージョンにも貢献する要素にスペックを高めることができます。


目次

  1. 全角文字は使わない
  2. 日本語フォントは使わない
  3. 記号に画像は使わない
  4. 文字を変形しない
  5. 数値と単位の間にはスペースを入れる
  6. 表記に一貫性を持たせる
  7. 日本語原稿を鵜呑みにしない
  8. 不安を感じたらネイティブチェックに出す
  9. 可能な限りスペックの内容を理解する
  10. スペック表全体の構造を意識する

満を持してのサイトリニューアルがようやく完了。遅まきながらモバイル対応もできたし、CTAも効果的に配置してある。ターゲットを意識したテキストと最新技術を効果的に使ったアイキャッチ画像も上司(あるいはクライアント)の評価はまずまず。製品写真のプレゼンテーションと説明テキストは、完璧とは言わないまでも徹底して検証したペルソナに基づいて丁寧に準備した。後はこれまでの努力がいい数値となって具体化するのを待つばかり。

このように高い意識を持って制作されたサイトであっても、優先順位が低い。あるいは後回し。もっとはっきり言って、やっつけ仕事でかたづけられがちなのが、製品仕様、いわゆるスペックではないでしょうか。

その理由はいろいろと考えられます。

数字や記号だらけで意味がよくわからない。だから、どこにどう手を加えられるのか判断できないので、デザインするのがためらわれる。あるいは内容が無味乾燥で、おもしろみがない。下手にさわって間違えたら大きな問題になる。クライアントから、あるいは技術者から、とにかくこのとおりに、という指示があった。原稿どおりに表示されさえすればオーケー

これは日本語コンテンツであっても事情はまったく同じでしょう。ましてや、海外向け英語サイトであれば、さらに言語の問題が加わるので、ますます腰が引けます。

商品情報サイトや印刷物の制作において、製品スペックはまさにアンタッチャブルな要素になっています。

しかし、だからといって英語としておかしな表記がゆるされる、というわけにはいきません。個人ブログなどなら話は別ですが、対価をいただいているプロフェッショナルならば、可能な限り英語表記のクオリティを追求すべきではないでしょうか。

もちろん、言語は常に変化しています。ひとくちに英語といっても、時代・世代・専門分野・地域・ライティングスタイルなどによってさまざまな「ゆらぎ」があります。そのようなゆらぎの中にあっても、共通のルールが英語表記には存在します。本稿では、そのような最低限の共通ルールに基づいてスペックを作成するためのポイントをまとめました。


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1. 全角文字は使わない

スペックに限らず、英文のドキュメントを作るときには、全角での文字・記号入力はしないようにしましょう。

Windows用日本語キーボードに装備されている全角半角切替キーは英語キーボードには搭載されていません。英語のアルファベットには全角・半角という概念はないのです。

ですから、同じアルファベットに全角と半角の2種類の文字があって、用途によって区別して使う、というようなことはしません。たとえば全角の「Power」という単語と半角の「Power」という文字がひとつのドキュメントに混在している、というような状況はありえません。全角か、半角か、と問われれば、英語ドキュメントはすべて半角文字で記述する必要があります。

基本中の基本ですので、何をいまさら、とお考えの方も多いと思います。そのように欧文テキストは半角入力をルールとしている場合でも、注意すべき点がふたつあります。

  • 全角のスペース
  • 支給データのコピー・ペースト

全角のスペースはテキストエディターなどの中では見落としがちかもしれませんが、ブラウザや印刷物で見ると、英語に慣れた目にははっきりとわかります。

クライアントや技術者から提供されたデータが英語で記述されたものであっても、全角文字や全角記号が含まれている場合があります。単なる入力ミスかもしれません。また、全角半角の認識のないひとの手によって、日本語版データから英語版へ編集されたものかもしれません。

下の図はテキストエディターに半角と全角で文字を入力し、日本語フォントにした状態と、英語フォントに変更を試みた状態の比較です。半角文字は英語フォントに切り替わりますが、全角文字は英語フォントに変えられません。

英語フォントは全角文字を持たない

エディターやアプリケーションの多くには、全角を検索して半角に変換する機能が搭載されています。それを利用するなどして、実装前のテキスト段階で全角文字を徹底的に排除しましょう

テキストエディタで全角文字を半角文字に変換


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2. 日本語フォントは使わない

日本語フォントに付属しているアルファベットは、基本的には日本語のテキストの中で、漢字・ひらがな・カタカナとのバランスがよく見えることを主な目的として作られています。欧文テキストに使うことを想定して開発されてはいません。日本語フォントの中には、英語テキストに使っても違和感のないものもあるようですが、まれなケースでしょう。英文テキストには欧文フォントを使ってください

本文中の記号や単位記号などもすべて欧文フォントを使います。記号が必要なときに、日本語入力で変換するというやり方はやめましょう。たとえば、日本語入力モードで「キログラム」と入力して変換した「㎏」は全角文字です。[1]ですから、ほとんどの場合、英語フォントに変換することができません。

全角文字は英語フォントに変更できない

HTMLで単位記号などを入力する場合は以下のサイトなどを参考にしてください。


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3. 記号に画像は使わない

テキストの中に、GIFやPNGなどの画像で単位記号を挿入するのはやめましょう。この強引なやり方は今でもときおり目にしますが、英語表記をはじめ、HTML、SEO、デザインなどの観点から、できるかぎり避けましょう。


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4. 文字を変形しない

PDFを含む印刷物で、日本語のオリジナル版から英語バージョンに展開する場合におこなわれがちな処理です。タイポグラフィの観点から避けなければいけません。

一般に、日本語を英訳すると文字数が多くなります。そのため、固定されたレイアウトで日本語を英語に挿し替えようとするとスペースに限界があることがよくあります。そこで、なんとか押し込もうと、テキストの左右の比率を縮小するのです。

テキストの比率を変更して押し込むのは日本語式

しかし、このようなレイアウト上の理由で部分的にテキストの比率を変更するということは英語テキストでは絶対におこないません[2]たとえば、ボールド、イタリックなどは、強調、引用などの意図を持っています。一部のテキストがほかの部分と異なって見えると、そこに何らかの意味があると受け取られてしまいます。また、テキストに変形を加えることで、フォントの美しさをそこなっていしまうということもあります。

レイアウト上の理由から、テキストを入れるスペースがない場合は、フォントの選択をスペック全体で見直すか、レイアウトを修正しましょう

実は文字処理だけでなく、レイアウトについての日本語と英語の考え方の違いを理解しなければうまく解決できません。そのひとつは、箱組と左揃えです。また、スペックについていえば、日本では「スペック表」という表組として認識されることが多いですが、英語のスペックの場合は発想を変えたほうが良い結果が得られます。この点については、またあらためて記事をまとめてみたいと思います。

ともかく、レイアウト優先でテキストの一部に変形を加えることをやめるだけでタイポグラフィ面でのクオリティを上げられます


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5. 数値と単位の間にはスペースを入れる

おおざっぱな言い方をあえてすれば、スペックにおいては、数値と単位の間にスペースを入れるのが間違いないです。

このように考えてください。「5メートル」を英語で書くと、「5 meters」と値と単位の間にスペースを入れます。スペースを入れずに「5meters」とは書きません。単位が記号になっても同じです。「5 m」とスペースを入れたままにします。


<img>space-en-ja.png

数字と単位記号のスペースについては本サイトの記事「スペース:間が大事」をご覧ください。


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6. 表記に一貫性を持たせる

これはそれほど特別なことではありません。たとえば以下のような不統一をなくす、ということです。

ひとつのスペック表の中で、

  • 数値と単位記号の間にスペースがあったりなかったりする。
  • 単位記号とスペルアウトが混在している。たとえば、ある項目では「W」が使われ、別の項目では「watts」となっている。
  • 大文字小文字の表記が不統一。たとえば、「Operating Temperature」と「Battery type」。
  • 言葉づかいの不統一がある。たとえば、「about」と「approximately」の混在。「up to」と「maximum」の混在。意図して使い分けていない場合は統一した方がいいでしょう。
  • 範囲の表記の不統一がある。たとえば、「10 to 30」と「10–30」の混在。
  • 表記スタイルが混在している。たとえば、ある箇所で「10 to 30 mm」としているものが、別の場所では「10 mm to 30 mm」となっている。

最初は統一が図られていたのですが、改訂を繰り返すうちに徐々に乱れていく、というのはよくあることです。支給された訂正箇所のみの情報が必ずしも既存スペックの表記方法に則っているとは限らないため、そのまま反映させると不統一が生じます。

範囲を示すときの単位の扱いについては本サイトの記事「エヌダッシュ:範囲はまっすぐ示す」の「SI単位系はエヌダッシュ非推奨」セクションをご覧ください。


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7. 日本語原稿を鵜呑みにしない

前項とも関連しますが、受け取った資料や原稿が日本語の場合、その項目を英語ではどのように表記するべきかを確かめましょう。

日本語原稿で数値と単位記号の間にスペースがなくても、英語版では必ず入れる。もし、原稿に「KHz」という表記があっても「kHz」と正しい表記にする。範囲が「0℃〜40℃」となっていても「0°C–40°C」または「0 °C to 40 °C」とする。など表記における翻訳作業をおこなう必要があります。

日本語データからのコピー&ペーストは、さらに注意すべき点があります。繰り返しになりますが、全角で入力された数字や記号、空白(スペース)は落とし穴です。すべて半角の適切な記号に変えてから実装しましょう。


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8. 不安を感じたらネイティブチェックに出す

クライアントから提供された他社制作の英語スペックが、そのままひな型として使えるクオリティのものか不安を抱く場合。または、初めて取り扱った製品の英語スペックを制作するときには、どこかの段階でネイティブチェックに出すことをおすすめします。

ただし、このネイティブチェックは、文法・スペリング・言葉づかいを中心にみてもらいましょう。名詞の複数・単数や、項目と内容が正しく呼応しているか、注釈の文が適切な英語になっているか、などのチェックを中心にお願いしてください。英訳の依頼の仕方が悪いためなのか、注釈文に問題があることが結構多いです。

コピーライターや翻訳家であっても、スペック中の数字や単位の表記の仕方に詳しいとは限らないので、それについてもチェックしてもらうためには、コピーライターや翻訳家に関連情報の調査研究を別枠でお願いする必要があるかもしれません。また、追加の予算と時間が必要になると考えます。

ある程度コストがかかるのは、初回のチェックのみです。以降同様のスペックを扱う必要が生じた場合は、追加・変更された箇所のチェック依頼だけで済みます。翻訳会社のネイティブチェックは、翻訳を依頼するよりは料金が低く設定されているのが一般的です。ですから、スペックのネイティブチェックは比較的ローコストでクオリティの高い結果を手に入れることができます。


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9. 可能な限りスペックの内容を理解する

商品に対する理解、技術的な知識などが必要なので、簡単ではありません。それでも、それぞれの項目が、どういう特長や性能を表しているのか、その内容は何を意味しているのか、数値は大きい方がいいのか小さい方がいいのか、など一度じっくりスペックを読んでみましょう

専門的な内容ですので、理解できないところがあるのが当然です。しかし、ぼんやりとでもイメージのつかめる項目があれば、スペックとの距離がぐっと近くのではないでしょうか。スペックの意味することがわからなければ、興味もわかないし、作業も機械的になるのだと思います。付き合い方が変われば、自然とスペックのクオリティも向上するのではないでしょうか。


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10. スペック表全体の構造を意識する

スペック表のもっとも基本的な構造は、項目とその内容です。項目と内容の組み合わせがいくつかまとまって、性能や特長を一覧できるものがスペックです。

商品やサービスが複雑になると、項目と内容の組み合わせの数が多くなります。また、項目の中に補助的な項目が設けられたり、いくつかの項目がひとまとめにグループ化されたりすることもあります。ディレクトリにたとえれば階層がどんどん深くなっていくのに似ているかもしれません。

カタログ制作に関わった経験上、スペックに限らず、日本語ドキュメントの構造は階層構造が深くなる傾向があります。一方、英語圏で制作されたドキュメントは、比較的階層が浅く、フラットに並べられているものが多いようです。

日本語スペックを英語バージョンに展開する場合、その構造のままでいいのか検討してみましょう。スペック全体を見直して、再構成したほうが、読みやすくなる可能性があります。

別のいいかたをすれば、スペック表だから<table>タグを使う、と機械的に判断せずに、<dl>タグの方が内容にあっているかもしれないし、シンプルに<h2><h3><p>で見出しと内容という構成にするのがベターかもしれない、と検討してみる、ということです。

いわゆるスペック表を超えて、性能を魅力的に提示しているケースについては本サイトの記事「丁寧に扱われているスペックたち」をご覧ください。

ダイソン社スペック-1
ダイソン社スペック-3


[1] 「キログラム」を変換すると、全角の1文字「㎏」以外に、半角の2文字「k」「g」の組み合わせも候補に出てきます。半角2文字の組み合わせであれば問題ありません。

[2] ここでは、スペックも含めて、地の文としてのテキストを対象としています。ワードロゴやポスターやアイキャッチイメージなどのグラフィックな処理は別の話です。

2 個のコメントがあります

  1. 匿名

    日本語と日本語を繋ぐアンドを全角半角どうすべきか悩んでいたので非常に助かりました。ありがとうございます

    • silverLining

      当サイトをご覧いただき誠にありがとうございます。微力ながお役に立てたことを知り、とても嬉しいです。
      しばらく更新がとだえていますが、近いうちに再スタートしたいと考えています。
      今後ともよろしくお願いいたします。

お読みいただきありがとうございます。気が向いたらまた遊びに来てください。

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