数学のダッシュは和製英語?


「n′」「m′」を「エヌダッシュ」「エムダッシュ」と読むのは、どうやら日本ローカルになりつつあるようです。海外では「エヌプライム」「エムプライム」と読み、日本の大学でも「プライム」が主流のようです。


目次

  1. まず句読点・記号の名前を整理
  2. プライムの使用例
  3. 英国でもかつてはダッシュと読んだ

このサイト「SpecAid 世界標準のスペック英語」で、「エヌダッシュ:範囲はまっすぐ示す」という投稿で、英語では「〜」ではなく「–」を使って範囲を示すということを紹介しています。この「–」の名前が「エヌダッシュ(en dash)」です。

一方、数学では「n′」を「エヌダッシュ」と読むと習いましたので、知人に「ダッシュにはエヌダッシュとエムダッシュがあって…」などという話をすると、ほとんどが「n′」「m′」の方を思い浮かべるようです。タイポグラフィの世界の「ダッシュ」または「ダーシ」の知名度(?)を考えれば、まったく当然のことです。

プライム・ダッシュ

1. まず句読点・記号の名前を整理

英語の句読点・記号としての「–」「—」「′」「″」の読み方は次のとおりです。

句読点・記号名称読み方
en dashエヌダッシュ
em dashエムダッシュ
primeプライム
double primeダブルプライム

ダッシュとプライム

2. プライムの使用例

英語でプライム「′」「″」は次のような使い方をします。

用途使用例意味
長さ6′2″6フィート2インチ
時間6′2″6分2秒
角度13°6′2″13度6分2秒
数学y, y′, y″類似・派生など
音楽c′, c″中央ハ(ド)、1オクターブ上のハ(ド)

物理・生物学などでも使われるようです。

【参考】
Wikipedia, “Prime (symbol)” (2017-9-12)
『ウィキペディア日本語版』 プライム (2017-9-12)
Wikipedia, “Helmholtz pitch notation” (2017-9-12)

3. 英国でもかつてはダッシュと読んだ

『道浦俊彦/とっておきの話』[1]という記事に、第二次世界大戦の頃までは英国でも「A′」を「A dash(エイダッシュ)」と読んでいたという言葉が紹介されています。

また、『怜悧玲瓏 ~高校数学を天空から俯瞰する~』というサイトには、あくまでも個人の体験的統計ではあるが、高校の数学教員のほぼ全数が「ダッシュ」派で、名古屋大学の数学教員の9割以上が「プライム」派だった、との記述があります。

かつて英国から輸入された「ダッシュ」という言葉が、本国で使われなくなっても、現代日本では(高校までは)使われ続けている、という変則的「ガラパゴス化」が生じているようです。

ちなみに、「y′」「y″」「f′(x)」などは、日本の大学ではそれぞれ「ワイプライム」「ワイダブルプライム」「エフプライムエックス」と読んでいるようです。

表記読み方文字実体参照
y′y prime′
y″y double prime″
y‴y triple prime‴
y⁗y quadruple prime⁗

「y⁗」は日本でもやはり「ワイクアドラプル」と読むのでしょうか。

と思ったら、「4次以上になると、プライム記号の数が多くなるので、y(4)と書いて第4次(第4階)の導関数ということに」するそうです。

【参考】
『道浦俊彦/とっておきの話』ことばの話1835「ダッシュ」 (2017-9-12)
『怜悧玲瓏 ~高校数学を天空から俯瞰する~』 y’ は,「ワイダッシュ」か「ワイプライム」か (2017-9-12)
『CHALLENGE from the VOID - 数学・物理の大学入試問題研究』 高次の導関数 (2017-9-13)


[1] 読売テレビの報道局専門部長で「現代用語の基礎知識」執筆委員でもある道浦俊彦さんの読売テレビサイトに連載されていた記事。ブログ移行にともないアーカイブ化されています。現在稼働中のブログは『道浦TIME』です。

お読みいただきありがとうございます。気が向いたらまた遊びに来てください。

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