例えば、ある製品がフル充電の状態からの連続使用時間が、7時間かそれよりも短いことをあらわす時、「電池持続時間:最大7時間」のように「最大」という言葉が数値に添えられます。普段の会話では「バッテリーどれくらい持つ?」「マックス7時間」などのように言うかもしれません。英語スペックで「最大」または「最小」をどのように表現するのが適切でしょうか。
目次
日本語のスペックを英語版に展開するとき、日本語の表現がそのまま使われてしまうことがあります。英語としては不自然なので、プロフェッショナルとしては見落とすことなく適切な書き方をすべきでしょう。
よろしければ、本サイトの記事「日本語の名残のあるスペック:英語に日本語が混入!」も覗いてみてください。
1. スペックで「最大」が使われているとき
日本語のスペックで「最大」が使われている例を見てみましょう。
下の例は、充電池内蔵ポータブル・スピーカー・システムのスペックです。「Bluetoothレンジ」と「バッテリー駆動時間」の項目に「最大」「最長」が使われています。
【引用サイト】ION AUDIO, “製品情報:Block Rocker” (2018-4-13)
「最大」の代わりに、英単語「max」を使うこともあります。
【引用サイト】株式会社 日伸理化, “ロータリーミキサー(ローテーター)シリーズ” (2018-4-13)
【引用サイト】フォスター電機株式会社, “TMBシリーズ” (2018-4-13)
ここで間違えてはいけないことは、「最大」を「max」に置き換えただけなので、英単語を使っていても英語になっているわけではないということです。
当たり前のことを言ってると思われるかもしれませんが、案外この点が見落とされがちです。
例えば次の例では、項目は日本語と英語の併記になっています。それに対して、値の欄には日本語式の表記のみ示されています。一見、日英共用のように見えますが、そのまま英語として使える表記にはなっているわけではありません。
【引用サイト】株式会社ジュパ, “製品仕様書:Specification” (2018-4-13)
2. 「max.」は「maximum」の省略形
言わずもがなかもしれませんが、念のためおさらいをしておくと、「max.」は「maximum」という単語の省略形です。省略を示すピリオドを最後に付ける必要があります。[1]
同様に、「最小」という意味の「min.」は「minimum」という単語の省略形です。
「maximum」という単語がどのように使われているか、辞書の例文を見てみましょう。
下記は、「最大限」「最高限度」「最大値」「最高値」といった意味の名詞「maximum」の文例です。
「maximum 27°C」ではなく、「a maximum of 27°C」となっていることに注意してください。
【引用サイト】Cambridge English Dictionary, “maximum” (2018-4-13)
次に、「最大の」「最大限の」「最高の」といった形容詞としての「maximum」の例文を示します。
いずれも「maximum + 数値」という形にはなっていません。[2]
【引用サイト】Cambridge English Dictionary, “maximum” (2018-4-13)
また、「maximum」には副詞として使われる場合もあります。この場合、「maximum」は、最大値として示されている言葉の後ろに置かれていることに注意してください。
【引用サイト】Oxford Dictionaries, “maximum” (2018-4-13)
3. 値と組み合わせるときは数字の後ろが安全
さて、バッテリーの持続時間が7時間であることを、名詞・形容詞・副詞の「maximum」を使ってそれぞれ表すと、以下のようになります。
- The product has a maximum of seven hours of battery life. ←「maximum」は名詞
- The maximum battery life of the product is seven hours. ←「maximum」は形容詞
- The battery will last seven hours maximum. ←「maximum」は副詞
このことを踏まえて、バッテリーの持続時間が最大7時間であることをスペック中で示す場合に、問題がないと考えられるパターンをリストアップしてみました。文法的な説明は割愛しました。
また、アラビア数字の「7」ではなく「seven」とスペルアウトすることがスタイルガイドで推奨されている例が下記リストには含まれていますが、「maximum」「max.」の表記に集中するために、その点については今回は触れないことにします。
「maximum」または「max.」を使わないパターンも最後に3点追加しています。
Battery life | A maximum of 7 hours |
Battery life | 7 hours (maximum) |
Battery life | 7 hours (max.) |
Battery life | 7 hours maximum |
Battery life | 7 hours max. |
Maximum battery life | 7 hours |
Max. battery life | 7 hours |
Battery life (maximum) | 7 hours |
Battery life (max.) | 7 hours |
Battery life | Up to 7 hours |
Battery life | 7 hours or less |
Battery life | ≤ 7 hours |
スペースが限られている場合など、「max. 7 hrs.」「max. 7 hours」などと表記される場合もないわけではありませんが、例外的である、と考えた方がいいでしょう。
なお、「maximum」「max.」についてのみ述べましたが、「minimum」「min.」についても同様です。
[1] ピリオドを付けない「max」は「maximum」の俗語で、意味は「maximum」と同じです。【参考】Cambridge English Dictionary,
“max”
[2] 「maximum + 数」というケースが全くないというわけではないようです。「Longman Dictionary of Contemporary English」には、「maximum」の後ろに数字(値)が続く例が3つ挙げられています。
• The pair were fined the maximum £1,000 and ordered to pay £1,000 costs.
• Interest on loans is fixed by law at a maximum 1% a month, a true rate of 12.68%.
• A lesser finding of manslaughter carries a maximum 20-year prison term.
ただ、いずれの文も、単純な「形容詞+名詞」という構造で後ろの数値を形容しているわけではないようです。ひとつめとふたつめは、名詞の「maximum」と後ろの値が同格、あるいは言い換えのような形になっています。三つめの文では、「maximum」が直接かかっているのは「term」であると考えられます。この解釈に誤りがありましたら、ご指摘いただけるとありがたいです。
【参考】Longman Dictionary of Contemporary English, “maximum”