本サイト「SpecAid – 世界標準のスペック英語」では、数字と単位記号の間はスペースを空けるのが基本であると考えています。しかし、単位が記号の場合はスペースを入れないというスタイルルールを設けているグループや組織もあります。英国の公共放送局BBCもそのひとつです。
数字と単位記号のスペースについては本サイトの記事「スペース:間が大事」をご覧ください。
また、英国報道系のスタイルについては、本サイトの記事「ところ変われば:Appleの場合(5)」の「2. 英国報道系はスペースを入れない」にも書いていますので、よろしければそちらも覗いてみてください。
目次
BBCは、英国放送業界に従事する人のスキルアップのために、BBCアカデミー[1]を設けています。そのサイトで BBCのサイトでは、「BBCニューススタイルガイド(BBC News style guide)」が公開されていて、「Numbers」のページに数値と単位についての記述があります。今回は、その中からスペックに関して一部紹介したいと思います。
【引用サイト】BBC News style guide, “Numbers” (accessed January 8, 2022), BBC Academy, “Numbers” (accessed August 15, 2018), Journalism – Numbers” (accessed Jan 22, 2018).
1. ヤードポンド法とメートル法を併記
まず、ヤードポンド法(帝国単位)とメートル法の両方を使うべき、としています。
We should use both imperial and metric measures in most stories. Context will usually decide which measure comes first, . . . with a conversion in brackets immediately afterwards.
【訳】ほとんどの記事ではヤードポンド法とメートル法の両方を使うべきである。どちらの単位を先にするかは文脈によって決まり、(…中略…)そのすぐ後にもう一方の単位による値を括弧に入れて示す。
面白いのは、原則として、英国や米国の記事の場合はヤードポンド法を先に、それ以外の国・地域の場合は、メートル法を先にするように、としていることです。次の例文が示されています。
- 英国・米国の記事
- He said the first 50ft (15.24m) of the climb had been hard.
- 英国・米国以外の記事
- Police in France say the floods reached a peak of 5.3m (17ft 8in).
また、重さの場合も同様に、換算したもう一方の単位での数値を括弧で示すよう定めています。
英国では「stone」という重さの単位が使われています。「1 stone(ストーン) = 14 pounds(ポンド)」という関係です。この「stone」が単独で使われる場合はスペルアウトし、「pound」との組み合わせで使われるときは、それぞれ「st」「lb」と短縮形を使う、としています。
- She said the company had sacked her because she weighed 15 stone (95.3kg).
- Police say they found 30g (1oz) of cannabis in the woman’s handbag.
- Charles Atlas said he had once weighed 6st 9lb (42kg).
2. BBCは単位記号の前にスペースを入れない
先に挙げた例文でおわかりのように、すべて数字と単位記号の間にスペースがありません。
単位が「stone」のようにスペルアウトした場合は、通常の単語と同じく数字との間にスペースを入れます。しかし、BBCのスタイルルールでは、単位が短縮形(記号)の場合、数字と単位記号の間にスペース入れません。
この「BBCニューススタイルガイド」には、「m」「km」に関して以下のような記述があります。
. . . . There should not be a gap between number and abbreviated unit, and units of measurement do not in general take an ‘s’ in the plural.
【訳】(…前略…)数字と単位の省略形の間は空けず、また、寸法の単位は一般的に複数形の「s」は付けない。
同様に、重さの単位である「g」についても次のようにスペースは空けない、としています。
From a gram (one thousandth of a kilogram), the abbreviation g is used at first reference and throughout. This rule applies whether singular or plural. It is lower case, and there is no gap between number and unit . . .
【訳】キログラムの1000分の1である1グラムからは、記事の最初から最後まで省略形の「g」を使う。このルールは、単数でも複数でも当てはまる。省略形としては小文字の「g」を使い、数字と単位の間は空けない。(…以下略…)
さらに温度に関しては、次のようにスペースを設けないことに加えて、度の記号「°」も使わないルールになっています。
Always use Celsius, not centigrade or Fahrenheit. Contrary to our usual style with numbers, we always use digits with temperatures (eg: 8C, 10C, 42C). It may sometimes be appropriate to add a Fahrenheit conversion to UK stories eg: The temperature rose above 38C (100F) on Friday, a UK record.
【訳】常に「Celsius(セルシウス)」を使い「centigrade(センチグレード)」「Fahrenheit(ファーレンハイト)」は使わない。通常の数字表記のスタイルに反して、BBCでは温度にはアラビア数字を使う(例:8C、10C、42C)。英国に関わる記事ではファーレンハイト度を追加するのが適切な場合もある(例:The temperature rose above 38C (100F) on Friday, a UK record.)
温度を表す単位では、度の記号「°」の有り無し、スペースの有り無し、スペースを入れる位置、の違いで5通りの表記ルールがあります。
上図の1番目は「BBC News Style Guide」による温度記号の表記の仕方です。摂氏(Celcius)は大文字「C」、華氏(Fahrenheit)は大文字「F」で示し、数字と単位の間にスペースは入れません。
2番目の『The Associated Press Stylebook』は米国の報道分野のスタイルブックです。3番目の『The Chicago Manual of Style』は、米国の書籍・出版分野で最も権威があるとされているスタイルガイド。4番目の『AMA Manual of Style』は、医科学系論文の執筆スタイルのスタンダードです。5番目は、国際単位系(SI)の表記ルールです。
BBCサイトに見る実例
実際に、BBCのサイトに掲載されている記事でも、数値と単位の間にスペースはありません。下記は風の強い地域についての記事の一部です。台風「ナンシー」(日本では「第2室戸台風」と呼ばれた)の最大風速について述べています。
【引用サイト】BBC, Earth – Where is the windiest place on Earth? (accessed Jan 22, 2018).
ちなみに、米国の報道関係ではどのような表記になっているかを調べてみました。テレビ3大ネットワークのうちのひとつABCのサイトで、同じような風速についての記事を見てみると、下記のように数字と単位の間にスペースを入れてあります。
【引用サイト】ABC News, California has a new wind-speed record: 199 mph (accessed Jan 22, 2018).
2018年4月26日現在、記事は閲覧できなくなっています。
時速の表記が、BBCの「km/h」に対して、ABCは「kph」となっています。これは「kilometers per hour」の頭文字を取った単位表示で、英語圏ではよく使われています。
3. 英国のメートル法普及団体はBBCルールを批判
前項のように、BBCニューススタイルガイドは結構ユニークというか、我が道を行く、といった印象です。事実、国際単位系(SI)の推奨している表記ルールと相反する点が多いです。
英国での国際単位系(SI)の普及活動をしている団体「UK Metric Association (UKMA)」は、BBCの監督機関「BBCトラスト」[2]からの諮問に対して、厳しい意見を示していたようです。
2014年にBBCに対して出された答申[3]がウェブ上で入手できたのですが、その中で次のような指摘がされていました。
- 「情報を伝え、教育し、楽しませる」というミッションを持つBBCは、英国の国家計量システムであるメートル法をサポートする責任がある。
- テレビ放送・ラジオ放送・ネット配信のすべてにおいて、国際単位系(SI)をデフォルトシステムとすべきである。
- BBCのスタイルガイドの当該セクションを速やかに書き直すべきである。
- ネット画面であってもテレビ画面であっても、国際度量衡局(BIPM)発行の小冊子の最新版で定められた正しいメートル法の記号を使うべきである。
「スタイルガイドの当該セクション」というのが、まさにこの投稿で扱っている「Weights and measures」のことです。
The Section of the BBC’s style guide headed “Weights and measures” actually contradicts the BIPM brochure and sets a very poor example. It should be withdrawn and completely rewritten paying regard to the above recommendations.
BBC editors, presenters and journalists may also wish to refer to UKMA’s own style guide, . . .
【訳】事実、BBCスタイルガイドの「重さと寸法」のセクションはBIPM小冊子の推奨ルールと相反していて、とても粗悪な例を掲載している。そのセクションはBIPM小冊子の推奨を尊重して完全に書き直すべきである。
BBCの編集者・プレゼンター・ジャーナリストはUKMAのスタイルガイドを参照するのがいいだろう。(…以下略…)
“Response of the UK Metric Association to the BBC Trust’s consultation” (pdf)
UKMAのスタイルガイド(PDF)は下記より参照できます。
Measurement units style guide (pdf)
UKMAは国際単位系(SI)を普及している団体なので、BBCニューススタイルガイドが国際度量衡局(BIPM)の推奨スタイルに反していると批判するのは当然です。
BBCはブログで、「スタイルは科学でもアートでもなく、正しいバランスを見つけようとする綱渡りのようなもの」であり、すべての人を満足させるスタイルは存在せず、「報道が視聴者にとってできるだけ明瞭であることをめざしている」とのべています。[4]
スタイルガイドとはどういうものかについて、わかりやすく説明した文章だと思います。
テレビの影響は今でも無視できませんし、BBCが放送業界向けにスタイルガイドを公開しているわけですから、それに基づいた表記が多くなることは想像に難くないでしょう。
どうやら、英国から提供された資料やコンテンツを参考にしてスペックをまとめる時には注意が必要のようです。
そして今後、英国が国際単位系のルールを受け入れていくのかどうかも興味深い点です。
【引用サイト】“UK Metric Association | For a single rational system of measurement” (accessed Jan 22, 2018).
[1]
【参考】BBC Academy
[2]
「BBCトラストとは、日本で言えばNHKの経営委員会にあたる。トラストは視聴者の代表としてBBCの活動をチェックし、戦略を決めてゆく。」【参考】ハフィントンポスト日本版「新トラスト委員長を迎えるBBC - 経費削減、多様性の確保が大きな課題に」
2017年4月のBBCの体制変更にともないBBCトラストは廃止されました。【参考】Yahoo!ニュース「英BBC、新体制へ ー 受信料制度は維持できたが、『BBCトラスト』は廃止に」
[3]
【参考】“BBC News and Current Affairs review – Response of the UK Metric Association to the BBC Trust’s consultation”(閲覧:2018-1-22)
[4]
“Style is neither science nor art – more like a tightrope act trying to find the correct balance . . . We aim to make our journalism as clear as it can be for our audience.”【参考】BBC Blogs – College of Journalism, “BBC News style on grammar and spelling is not Strictly to everyone’s taste”(閲覧:2018-1-22)