「くたばれ、タイプライター!」といっている人もいます


タイプライターだなんて、今ごろ何言ってんだ?もう21世紀になって何年経つと思ってるんだ。ズレてるなぁ。とお思いのアナタ。チッ、チッ、チッ(人差し指を左右に振ってます)。確かにタイプライターは一部のマニアを除いて、今ではほとんど使われていません。しかし、タイプライターの流儀は、そうと自覚されることなく、いまでも根強く残っています。


目次

  1. タイプライター時代の習慣
  2. タイプライターの作法を憎むタイポグラファー
  3. 「スマート引用符」「まぬけ引用符」
  4. デザイナー仕事?コーダーの仕事?

タイプライターが発明されて、手書きの労力が大幅に軽減されました。一方で、機械の物理的制約によって、文字コミュニケーションの精度を上げるために考え出された工夫が無視されてしまいました。コンピューターの入力機器であるキーボードは、もちろんタイプライターを基にしています。そして、ありとあらゆるフォントが利用できるようになった現在でも、タイプライターの作法があちらこちらで生きながらえているようです。


このセリフは、シェイクスピアの作品ではなく、実際はアッリーゴ・ボーイトの作品「ファルスタッフ」からの引用である。

【画像の引用元】False Scribes, “‘When I saw you I fell in love…’ — Arrigo Boito” (2018-2-1)

1. タイプライター時代の習慣

タイプライターは、搭載するキーの数に限りがありました。そのため、書物の印刷で使われている装飾法や、句読点には、タイプライターで印字できないものがありました。そこでそれを補うために、別のキーで省かれた文字の代用とする方法が考え出されました。

下の表は、Wikipediaの「Typewriter」の記事を参考にまとめたものです。

文字・記号 伝統的タイポグラフィの作法 タイプライターでの代用
エヌダッシュ 2–7 2-7 (ハイフン)
エムダッシュ Would you please—oh, never mind. Would you please - - oh, never mind.(二連のハイフン)
文末のスペース Wait here. Don’t go. Wait here.  Don't go.(二連のスペース)
引用符 ‘single quotes’ 'single quotes'(ストレート引用符)
二重引用符 “double quotes” "double quotes"(ストレート引用符)
プライム 12′1″ 12'1"(ストレート引用符)
イタリック italic underline
強調 bold CAPITAL LETTERS(大文字)
数字の1 1 l(小文字のエル)
数字の0 0 O(大文字のオー)

【参考サイト】Wikipedia contributors. “Typewriter.” Wikipedia, The Free Encyclopedia. 30 Jan. 2018. Web. 2 Feb. 2018.

ポータブルタイプのタイプライターでは、コンパクトにするためにキーをできるだけ省略していました。数字の「0」と「1」の専用キーも省かれていました。「0」と「1」を打つときは、それぞれアルファベットの大文字オー「O」と小文字のエル「l」で代用していました。

【画像の引用元】wikiHow, “How to Type on a Typewriter: 15 Steps (with Pictures)” (2018-2-2)

タイプライターの流儀(1)


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2. タイプライターの作法を憎むタイポグラファー

前項のタイプライターでの代用の仕方を見ると、いまでもウェブコンテンツでも同じことが広くおこなわれていることに気づくと思います。

また、ウェブの影響を受けて、印刷物でも同じように代用が多く用いられるようになっています。

デザイナー兼タイポグラファーのMarcin Wichary氏は、『Medium』という情報サイトの「Death to typewriters(くたばれタイプライター)」という少々ぶっそうなタイトルのページで、豊かな表現力やニュアンス・職人技・伝統といったものを、タイプライターが台無しにした、と言っています。

タイプライター自体は既にあまり使われていませんので、正確に言うと「タイプライターの流儀」に対して「くたばれ!」と言っているわけです。

そのページでは、同じ文章を、タイポグラファーが組んだ文書、タイプライターで打った文書、初期の文字ベース(CUI)のパソコン画面で比べています。どのような部分にタイポグラフィカルな処理をおこなっているかを、細かく説明しているので、参考になります。

これを見ると、ウェブコンテンツがまだまだタイプライターの流儀を引きずっていることがよくわかると思います。

タイプライターの流儀(2)
タイプライターの流儀(3)

【画像の引用元】Designing Medium, “Death to typewriters” (2018-2-2)


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3. 「スマート引用符」「まぬけ引用符」

Googleなど検索エンジンで「smart quotes dumb quotes」を検索すると、「『dumb quotes』をやめて『smart quotes』を使おう」と主張するページがたくさん表示されます。

Google検索:smart quotes, dumb quotes

「smart quotes」は始まりの引用符(開く引用符)と終わりの引用符(閉じる引用符)の形の異なる2つの引用符を一組として使います。

一方、「dumb quotes(まぬけ引用符)」は、「straight quotes(ストレート引用符)」とも呼ばれる引用符で、始まりと終わりの引用符の区別はありません。タイプライターやパソコンのキーボードに印字されているのは、この「dumb quotes」「straight quotes」です。

ダブルプライム・カールした二重引用符・まっすぐの二重引用符

ストレート引用符を「まぬけ引用符」と呼んでいるのは、もっぱらタイポグラファーやデザイナーです。彼らは、「スマート引用符」を使うべきだと主張しているので、「ストレート引用符」を「まぬけ」だと非難しているわけです。

一方、プログラマーたちは、「まぬけ引用符」とは呼びません。プログラミングでは基本的に「ストレート引用符」しか使わないからです。自分たちが普段使っている引用符をわざわざ「まぬけ」と呼ぶことはないでしょう。

そもそも、初期のコンピューターでは「スマート引用符」は入力できませんでしたので、プログラム言語は「ストレート引用符」のみを前提としています。

メール・HTML・CMS間でテキストデータを受け渡しする際に、「スマート引用符」が正しく変換されない場合があるため、プログラマーの中には、やっかい者扱いする人もいるようです。

技術的な障害や課題はいろいろあると思います。しかし、例えば『WIRED』誌のように、メール、ウェブサイトの両方で「スマート引用符」「スマートアポストロフィ」「エムダッシュ」など伝統的なタイポグラフィを踏襲しているサイトは多くあります。

『WIRED』誌メーリングリスト
『WIRED』誌のメーリングリスト(HTML版)
『WIRED』誌サイト
『WIRED』誌のウェブサイトの記事

【画像の引用元】WIRED, “How to Optimize Your Home for Robot Servants” (2018-2-5)

『WIRED』誌のサイトでは、「スマート引用符」と「ストレート引用符」が同じ記事の中に混在していたり、見出しと本文で処理が違っていたりと、技術面・管理面
での苦労が垣間見えます。タイポグラフィの自動化はまだまだ難しいようです。ともかく『WIRED』誌が、タイプライター式でよし、としていないことだけは確かです。

その他、クォリティペーパーと呼ばれる新聞や雑誌のサイトは、少なくとも本文ではタイプライター式の表記をしない方向であることがわかります。残念ながら、トップページや見出しでは、「ストレート引用符」であったり、「スマート引用符」との混在が見られます。やはりメーリングリストなどとの連動の点で技術的な問題があるのでしょうか。

代表的なサイトのいくつかをご紹介します。

【クォリティペーパーと呼ばれる新聞や雑誌のサイト】

The Times(タイムズ)
https://www.thetimes.co.uk
The Guardian(ガーディアン)
https://www.theguardian.com/international
The New York Times(ニューヨークタイムズ)
https://www.theguardian.com/international
The New Yorker(ニューヨーカー)
https://www.newyorker.com
Fortune(フォーチュン)
http://fortune.com
Time(タイム)
http://time.com
National Geographic(ナショナルジオグラフィック)
https://www.nationalgeographic.com


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4. デザイナーの仕事?コーダーの仕事?

タイプライターで紙に印字したものが原稿だった時代は、その原稿を元に植字工(タイプセッター)活字を拾ったり、写植機で文字を選んで、印刷用に組み上げていきました。その時に、タイプライターで打った「ストレート引用符」は
「スマート引用符」に置き換えられました。同様に、ハイフンは「エヌダッシュ」に、二続きのハイフンは「エムダッシュ」に置き換えられました。

DTPが普及し、データ入稿が一般的になってからも、レイアウトデータが印刷工程に回される前に、原稿のテキストデータを「どこかで」「だれかが」適切に処理していました。そのため、執筆者が認識していたかどうかにかかわらず、「ストレート引用符」は「スマート引用符」に置き換えられていたのです。

引用符を変換するのは誰の仕事か?

ところが、誰もが自由にネット上でブログを公開できる時代になると、事情が変わりました。言ってみれば、タイプライターで打ち出した原稿をそのままネット上で公開しているような状況が生まれたわけです。

下のようなサイトを見ると、プロフェッショナルが制作に関わったことが感じられます。レスポンシブ対応でなかったり、とデザインは少々古くなってしまっていますが、信頼できる組織なんだろうな、という印象を持ちます。いかがでしょうか。

チーター保護基金

【画像の引用元】Cheetah Conservation Fund, “Cheetah Facts for Kids” (2018-2-5)

お読みいただきありがとうございます。気が向いたらまた遊びに来てください。