スラッシュ「/」は「on/off」「he/she」などのように、「or」の代わりに使われる記号です。スラッシュは、目的を吟味しなくても、なんとなく使えてしまうのですが、それが裏目に出て、読者に意図が伝わらないことがままあります。特に日本語では、要素を列挙するときなどにスラッシュを使いますが、もともと英語のスラッシュにはそういう用途はありません。
下の英文を読んで、「Macintosh II」ファミリーの製品名を正しく把握できるでしょうか。あなたが古いパソコンに詳しくないという前提での質問ですが。
Macintosh II series includes the II/x/fx/cx/ci/si. … (A)
スラッシュが「or」の意味であることを踏まえると、このように製品名を列挙する時にスラッシュを使うべきではないのですが、日本発の英文情報にはこのような使い方がよく見られます。
要素を列挙する時にはコンマを使いますので、上記の文を書き直すと下のようになります。
Macintosh II series includes the II, x, fx, cx, ci, and si. … (B)
製品名を整理すると次のとおり。
- Macintosh II
- Macintosh x
- Macintosh fx
- Macintosh cx
- Macintosh ci
- Macintosh si
しかし、これは事実とは異なります。2番目以降はこれまで販売されたことのない架空の製品名です。正しい製品名は次のとおりです。
- Macintosh II
- Macintosh IIx
- Macintosh IIfx
- Macintosh IIcx
- Macintosh IIci
- Macintosh IIsi
実際に製造・販売された製品を踏まえて(B)を書き直すと次のようになります。
Macintosh II series includes the II, IIx, IIfx, IIcx, IIci, and IIsi. … (C)
それでは、(A)の書き方が誤りであって、正しくは次のように書くべきだったのでしょうか。
Macintosh II series includes the II/IIx/IIfx/IIcx/IIci/IIsi. … (D)
なんだかイライラしませんか?
そこで、もっとうまい見せ方はないかしばらく悩んで、いいアイデアを思いつきます。
a × b + a × c + a × d = a × (b + c + d)
分配の法則の逆ですね。
II, IIx, IIfx, IIcx … と「II」が共通なのでまとめてしまえ、ということです。II × (0 + x + fx + IIcx …)みたいな感じです。無印の「II」の扱いがちょっとビミョーですが。
というわけで、(A)になるわけです。
Macintosh II series includes the II/x/fx/cx/ci/si. … (A)
少し改良して…
Macintosh II series includes the II and IIx/fx/cx/ci/si. … (A′)
しかし、これだと、読んだ人は(B′)のように誤解してしまいます。
Macintosh II series includes the II, IIx, fx, cx, ci, and si. … (B′)
で、結局(C)が正確に伝わる書き方ということになります。また戻ってきました。
そもそも(A)や(D)のように正確さや理解しやすさを二の次にして「/」を使う理由は何でしょう。明確な理由があるのでしょうか。おそらく、内部資料やプレゼン資料をそのまま原稿として流用しているようなケースが多いと思います。
列挙されている品番を知っていると、(A)や(D)のようにスラッシュを使っていても、その意味が読み取れるので問題は無いように思えるかもしれません。しかし、読者が品番を知っているとは限りません。むしろ知らないことを前提にすべきでしょう。
このように品番などを列挙する時にスラッシュを使うことのメリットは見つかりません。スラッシュを使わず、(C)のように書くのがいいのではないでしょうか。
Macintosh II series includes the II, IIx, IIfx, IIcx, IIci, and IIsi. … (C)
あるいは、スペック表などでは、(E)のようにまとめるか、(F)のようにフルに列挙するのが読者のためには望ましい選択だと考えます。
Macintosh II series (II, IIx, IIfx, IIcx, IIci, and IIsi) … (E)
Macintosh II series: Macintosh II, Macintosh IIx, Macintosh IIfx, Macintosh IIcx, Macintosh IIci, and Macintosh IIsi … (F)
スラッシュを使わない方がいいもう一つの理由
ブラウザのウィンドウサイズを小さくすると、ウィンドウの幅に合わせてテキストは改行されます。スラッシュを使うと、スラッシュで結合された部分がひとくくりに、ひとつの単語のように扱われてしまいます。
下の図はmacOS上のSafariのスクリーンキャプチャです。Chromeも同様。Firefoxでは、スラッシュで結合された部分の途中で改行されますが、スラッシュが行の頭に来てしまうので不適切な表記となります。