ところ変われば:Appleの場合(7)


温度のスケールには摂氏(°C)と華氏(°F)があります。長さの単位には、メートル法とヤード法があります。アップル社の各国のサイトでは、スペックではどのように表記されているでしょうか。また、各地域の担当者がどのスタイルガイドに則っているかによっても、表記の違いが生じているようです。

【前回の投稿はこちら】ところ変われば:Appleの場合(6)


目次

  1. 米国の日常生活では華氏「°F」を使う
  2. 複合語のハイフン
  3. メートル法は断固拒否?
  4. コロンの後ろは大文字?小文字?

アップル社のMacBook Proの同一モデルのスペック表記が、国・地域によって少しずつ異なっているので、比べてみました。モデルは2017年6月発売のMacBook Pro 13インチです。製品スペック自体は同じなのですが、市場に応じてスペック値の表記の仕方や文章スタイルに違いが見られます。

次の4地域向けサイトの仕様ページ(Tech Specs)を比べました。

「Electrical and Operating Requirements」(電力条件と動作環境)の項目を見てみましょう。市場によって表記が異なる箇所にマーカーを引きました。

MacBook Pro スペック:Electrical and Operating Requirements

アメリカ合衆国サイト
Macbook Pro 電力条件と動作環境(US)

英国サイト
Macbook Pro 電力条件と動作環境(UK)

オーストラリアサイト
Macbook Pro 電力条件と動作環境(AU)

香港サイト
Macbook Pro 電力条件と動作環境(HK)


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1. 米国の日常生活では華氏「°F」を使う

 N の部分を見てみましょう。動作時の温度条件と保管時の温度条件が記されています。アメリカ合衆国サイトは、華氏(°F)が主で、摂氏(°C)が従、逆に英国・オーストラリア・香港のサイトは摂氏が主で華氏が従になっています。

華氏(かし)は、「Fahrenheit」(ファーレンハイト)という温度目盛です。日本ではあまりなじみのない華氏ですが、アメリカ合衆国や欧米の一部の国・地域では日常生活で使われています。[1]

摂氏(せっし)は、「Celsius」(セルシウス)という温度目盛で、日本ではこちらが使われています。

華氏と摂氏は、おおよそ「32°F = 0°C」「212°F = 100°C」という関係になっています。換算式は次のようになります。

  • [摂氏°C] = ([華氏°F] − 32) × 5 ÷ 9
  • [華氏°F] = [摂氏°C] × 9 ÷ 5 + 32

摂氏・華氏の換算


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温度記号の表記の仕方は3通り

温度の記号「°C」「°F」の表記の仕方については意見が別れていて、次の3つのパターンがあります。このMacBook Proのスペックでは、数字と度の記号「°」の間にスペースは入れず、「F」「C」は離す、という表記法を選択しています。

シカゴマニュアルなど

  • 0°C
  • 32°F

The AMA Handbook of Business Writingなど

  • 0° C
  • 32° F

BIPMなど国際単位系(SI)

  • 0 °C
  • 32 °F

温度記号とスペース

参照サイト:Degree Symbol – Rules and Examples, www.really-learn-english.com

本サイトの投稿「スペース:割と度し難い?」もご覧ください。


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範囲の記号はエヌダッシュ

例えば「10度から35度」という範囲を表す時、日本語では「10°C〜35°C」と波線(または波ダッシュ)を使いますが、英語ではエヌダッシュ(–)またはハイフン(‐)を使います。

また、記号を使わずに「10°C to 35°C」と単語の「to」を使うことも多いです。とくに N のように、マイナス記号が使われている場合は、エヌダッシュ・ハイフンと紛らわしいので、「to」を使う方が望ましいです。

範囲:エヌダッシュか「to」か

範囲記号については、本サイトの投稿「エヌダッシュ:範囲はまっすぐ示す」もご覧ください。


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2. 複合語のハイフン

 O の箇所では、英国サイトだけが「non」と「condensing」の間にハイフン「-」が入っています。

「noncondensing」は、否定の「non」と「凝縮する」と言う意味の「condensing」を組み合わせてできた複合語です。スペック中では、よく「結露しない」という意味で使われます。

では、ハイフンを使ったり使わなかったりする理由はなんでしょうか。

英国の『オックスフォード・スタイルマニュアル』の「Prefixes and combining forms」(接頭辞と連結語)の項に次のように書かれています。

. . . . The hyphen is used less in US practice. Words beginning with non- and re-, for example, are often set as one word:
noneffective
nonnegotiable . . .

【訳】米国では英国ほどハイフンは使われない。例えは、「non-」「re-」で始まる単語は一つの単語としてハイフンなしで組まれることが多い。
noneffective
nonnegotiable . . .

R. M. Ritter, The Oxford Style Manual (Oxford: Oxford University Press – 2003)  (項目5.10.2からの抜粋)

「nonnegotiable」などは「non」が「n」で終わり、「negotiable」が「n」で始まるため、読みやすいように「non-negotiable」とハイフンを入れることが英国では多いけれども、米国ではハイフンを入れないということです。

米国の「noncondensing」に対して、英国の「non-condensing」もこれと同じ理由だと考えられます。

複合語とハイフン


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3. メートル法は断固拒否?

 P の箇所では、米国サイトはフィート表示しかありません。

温度のスケールに華氏(ファーレンハイト)を使っているように、米国では長さの尺度はインチ・フィート、重さはオンス・ポンドを主に使っています。MacBook Proのスペックでも、「メートル法なんて使ってられるか!」ってことで、無視を決め込んでいるのでしょうか。

本体寸法や重量の項目ではcm・kgも併記していますので、そういうことではなさそうです。高度を示す数値が大きいのでkmやmでは、ユーザーがピンとこないだろう、ということで省略したのかもしれません。


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1フィートは約0.3メートル

1フィートは0.3048メートルです。「10,000」「15,000」「35,000」の各フィート値をメートルに換算すると次のようになります。上が「1フィート=0.3メートル」とした場合、下が「0.3048メートル」で計算した場合です。

  • 10000 × 0.3 = 3,000 (m)
  • 15000 × 0.3 = 4,500 (m)
  • 15000 × 0.3 = 10,500 (m)
  • 10000 × 0.3048 = 3,048 (m)
  • 15000 × 0.3048 = 4,572 (m)
  • 15000 × 0.3048 = 10,668 (m)

そうです。オーストラリアの Q だけ、「1フィート=0.3048メートル」で換算した結果になっています。意図的なのか、単なるミスなのかわかりません。(日本のサイトではすべて0.3048で換算した値です)

ちなみに、フィート(=feet)は「foot」の複数形なので、英語では1フィートは「1 foot」「one foot」と単数形にします。


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英語スペリングと米語スペリング

メートルのスペリングが、英国・オーストラリアサイトが「metre(s)」と英国式であるのに対し、香港サイトは「meter(s)」と米国式になっています。

メートル/フィート換算


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4. コロンの後ろは大文字?小文字?

最後に R ですが、オーストラリアサイトだけ大文字の「T」で始めています。他の国・地域は小文字です。

コロンの後ろの文は、大文字で始めるべきか、小文字で始めるべきか、ということです。

『APスタイルブック』のコロンの項には、コロンの後ろの大文字化について次の記述があります。

. . . . Capitalize the first word after a colon only if it is a proper noun or the start of a complete sentence: . . .

【訳】(…前略…)コロンの後ろの単語が固有名詞であるか、完全な文の最初の単語である場合のみ、その単語を大文字で始める(…以下略…)


The Associated Press Stylebook and Briefing on Media Law 2017
(New York: Basic Books – 2017) (429ページ)

また、『シカゴマニュアル』では、コロンの後ろに完全な文がふたつ以上ある場合は、最初の単語を大文字で始める、としています。

いずれにしても、 R のコロンの後ろの「tested up to 3,000 metres (1,000 feet)」は完全な文ではありません。

項目名にコロンがなく、太字で示されている場合や表組みの場合であれば、「T」を大文字にすべきでしょう。

Operating altitudeTested up to 3,000 metres (10,000 feet)

同じページの「Keybaord and Trackpad」には、キーボードの特長・機能がリスト表示されています。「Full-sized backlit keyboard with:」とコロンに導かれた3項目が縦に並べられていて、2項目めと3項目めが大文字で始まっています。下の図は、わかりやすいように各項目の頭にグレーの丸を追加しました。

コロンとリスト表示

このようなリスト表示は同じページに他にもいくつかあります。 R では、コロンの付いた項目とその内容が「項目: 内容」と1行になっているので、リストではありません。しかし、同じようにコロンに導かれているので、見た目の統一を図って大文字で始めたのではないでしょうか。

項目・内容の表記の仕方については、あらためてまとめてみたいと思います。


[1] ロックの王様エルビスプレスリーの曲「バーニングラブ」に「助けてくれ 燃えている おれはもう109度に違いない」という歌詞があります。ロックだから大げさな温度にしたのではなく、米国なので109°Fなのです。摂氏に換算すると42.8°Cですので、まぁ普通に高熱ですね。

お読みいただきありがとうございます。気が向いたらまた遊びに来てください。

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